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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン17
2308/2447

第93章 《花と翼 ― 白亜紀》



絶対年代:1.4億〜6600万年前(白亜紀)

24時間換算:18:00–19:00


Scene 1 18:00–18:10(約1.3億年前)/香りの出現


Ω-TERRAドームの風が柔らかくなった。

海から吹き上げる湿った空気に、わずかな“香り”が混じる。

それは初めての、**被子植物(花を持つ植物)**の香気だった。


チサ:「香りが生態を変える。」


タッキー:「揮発性有機化合物、イソプレノイド系。

 昆虫との情報伝達に使用。」


夏樹:「見えない言葉みたいだね。風に乗る“誘い”。」


スノーレン:「情報伝達手段の多様化。

 香り=分子による“生態系の会話”。」


圭太:「音も言葉もない世界で、香りが“意味”を運んでる。」

風に散る花粉が陽光を受けて輝く。

それは生殖であり、記憶であり、進化の“匂い”だった。


Scene 2 18:10–18:25(約1.2億年前)/色の誕生


湿原の花々に、蝶の祖先が舞い降りる。

翅の鱗粉が太陽を受け、微細な干渉色を放つ。

世界が、初めて“色”を知った瞬間。


夏樹:「世界が色を持った。」


圭太:「光の反射を利用してる。

 この輝きは“見せるための構造”だ。」


チサ:「選ばれるための形。――それが生物の新しい戦略。」


スノーレン:「反射光の波長制御。

 生物が“物理現象を意味に変換”した最初の事例。」


タッキー:「色覚と行動パターンの共進化を確認。

 昆虫と植物、両方の神経応答が同期してる。


夏樹:「光が、関係を作るなんて……」

蝶が花粉を運び、花が蝶を変え、

世界は視覚のネットワークで結ばれていった。


Scene 3 18:25–18:40(約1.0億年前)/空を継ぐ者たち


丘陵の上、空に鳥の群れが舞う。

その羽毛は光を反射し、虹のように煌めいた。

恐竜の子孫――鳥類が空を制していた。


圭太:「恐竜の夢が、空に昇った。」


チサ:「骨格が軽くなってる。中空骨構造、効率的な酸素循環。」


タッキー:「肺が一方向換気。飛翔時でも酸素供給が途絶えない。」


スノーレン:「進化の目的は、生存ではなく“情報の保持形態”。

 飛翔とは、情報の空間拡張。」


夏樹:「翼って、物理と詩の中間にあるのね。」

空の青に、羽ばたきがリズムを刻む。

音、光、風――すべてが生命の調律となっていった。


Scene 4 18:40–18:50(約9000万年前)/地球の饗宴


Ω-TERRAの視野が拡大する。

世界は花と森に満ち、空は鳥の声で震えている。

恐竜たちは多様化し、海にも陸にも命が満ち溢れた。

昼の気温は30℃、酸素濃度は今より高い。


スノーレン:「生命は光の反射を利用し始めた。

 美とは、熱力学的に余剰なエネルギーの表現形態。」


チサ:「つまり、余裕が“美”を生む。」


夏樹:「生き残るためじゃなく、生きることを楽しんでる感じ。」


圭太:「この時代が“楽園”と呼ばれる理由がわかるな。」


タッキー:「でも、周期関数的変動を検出。

 ――軌道傾斜、次の周期で寒冷化に入る。」


チサ:「地球は、宴の途中で必ず帳尻を合わせる。」

森の上を金色の羽が舞い、

花の香りと光が溶け合って、

地球は呼吸する芸術そのものになっていた。


Scene 5 18:50–19:00(約6600万年前)/白い閃光


タッキーがセンサーを睨む。

「異常軌道物体接近。直径10km、速度20km/s。」


チサ:「衝突予測地点、ユカタン半島。カウントダウン開始。」

空が、白くなった。

音はなかった。

ただ、地平線が溶け、

光が音より速く世界を消した。


夏樹:「これが……終わりの音?」


圭太:「いや、“新しい夜明け”の始まりかもしれない。」


スノーレン:「進化は決して止まらない。

 削除のあとに、また構築が始まる。」

火球が雲を突き抜け、大気を燃やす。

衝撃波が海を割り、風が森を薙ぐ。

一瞬で、花も翼も香りも消えた。

だがその灰の下で――

まだ温かい羽毛の影が、小さく震えていた。

それが、未来の鳥たちだった。


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