表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン17
2307/2447

第92章 《恐竜の楽園 ― 陸と空の分岐点》



絶対年代:2.5〜1.4億年前(中生代・三畳紀〜ジュラ紀)

24時間換算:17:00–18:00


Scene 1 17:00–17:10(約2.5億年前)/乾いた始まり


Ω-TERRAの視界が再び広がる。

地表には巨大な大陸――パンゲアが広がっていた。

海は遠く、中央は果てしない赤褐色の砂漠。

かつて海だった場所に、塩の結晶が光を返している。


スノーレン:「気候モデル更新。パンゲア中央部――乾燥指数0.92。

 日較差:+60℃/−10℃。」


チサ:「海の呼吸が止まった分、陸が息を荒げてる。」


夏樹:「空気が重い……けど、匂いがある。砂と熱の匂い。」


圭太:「森が遠いな。命はまだ“点”でしかない。」


タッキー:「大気中のCO₂濃度、2200ppm。酸素濃度15%。

 ――それでも、復活は始まってる。」

やがて地平線に、緑が揺れた。

それはソテツと針葉樹が作る最初の森。

ペルムの死を越えて、緑が再び呼吸を始めた。


Scene 2 17:10–17:25(約2.3億年前)/陸の覇者


湿地帯に足音。

長い首を持つ竜脚類の群れが、霞の中をゆっくり進んでいく。

その背に陽が差し、皮膚の紋様が光を受けて波打つ。


チサ:「陸が動物に奪われた……でも、空が開いた。」


スノーレン:「大気温度28℃、湿度90%。温暖安定期の始まり。」


圭太:「皮膚のパターンが植物みたいだ。光合成の模倣か?」


タッキー:「赤外線反射率の最適化。――熱制御だ。」


夏樹:「陸が音を取り戻したね。鳴き声が風に混ざってる。」

彼らの足元では、原始的な哺乳類――モルガヌコドンが草陰を走る。

夜行性。暗闇の中で、嗅覚と聴覚が進化していた。


スノーレン:「哺乳類の系統、確認。体温維持機構の原型。」


チサ:「恐竜が昼を支配し、彼らが夜を守る……生態圏の分業ね。」

陸は再び、呼吸を始めていた。


Scene 3 17:25–17:40(約2.0億年前)/昼食 ― “観測者たちの午後”


Ω-TERRAドームの再現時間は、現実の昼下がりに同期していた。

チサたちは観測を一時中断し、調整室のテラスに出る。

風景はジュラ紀の湿原。遠くでステゴサウルスの群れが移動している。


タッキーがAI補給装置からトレーを取り出す。

金属皿に並ぶのは――合成タンパクと藻類由来のスープ。


圭太が笑う。「まさか恐竜見ながら飯食うことになるとはな。」


夏樹:「この湿気の中で味噌汁飲むの、ちょっとシュールね。」


チサはスープを啜りながら、空を見上げる。

「空気が、もう“生き物”みたい。水蒸気と酸素の匂いが混ざってる。」


スノーレン:「嗅覚入力と記憶想起が同期。

 ――観測者が“時代の匂い”を再現している。」


タッキー:「海と違って、陸の時間は食事のリズムと似てる。

 取り込み、分解、再構成。」


チサ:「つまり、陸上生態系そのものが“消化器官”なのね。」

彼らの背後で、遠雷が響いた。

湿原の午後、生命の匂いが濃く漂っていた。


Scene 4 17:40–17:50(約1.8億年前)/空を奪う翼


突風が吹き、上空を滑る影。

膜の翼を広げたプテロサウルスが、海岸線を掠めて飛んでいく。

その眼は鋭く、風の動きを読むように揺れていた。


スノーレン:「翼竜出現。――陸の支配者が“空気の利用者”へ進化。」


チサ:「重力を味方につけた種ね。

 陸が支配されたからこそ、空が解放された。」


圭太:「鳥になる前の鳥。まだ空気を“掴む”ように飛んでる。」


タッキー:「翼膜の構造、コラーゲン線維の方向性で強度分布を制御。

 軽量構造の原型。」


夏樹:「風の上を泳いでるみたい。」


チサ:「泳ぐことと飛ぶことの違いは、媒質だけ。

 でも、空は“意志”が必要ね。」

プテロサウルスが陽光を切り裂き、森の上を旋回して消えた。

空が、新しい生態系の舞台となった瞬間だった。


Scene 5 17:50–18:00(約1.4億年前)/黄昏の森


太陽が低く、森が金に染まる。

ソテツとイチョウの葉が風に鳴り、針葉樹の樹液が光る。

その中を、小さな恐竜――羽毛を持つコンプソグナトゥスが走る。


タッキー:「羽毛の構造解析。ケラチン多層膜、保温機能を確認。」


スノーレン:「温血化進行中。代謝安定化。」


圭太:「見ろよ……鳥の影がもう見えてる。」


夏樹:「空気が柔らかくなった。酸素が、優しい。」


チサ:「恐竜の時代は、力の時代じゃない。――適応の時代よ。」


圭太:「陸が再び歌ってる。」


夏樹:「滅びの後にも、こんな音があったんだね。」


スノーレン:「観測記録完了。――“大気生態系、安定フェーズ突入”」

太陽が沈み、空が紫に変わる。

その光の中で、恐竜たちはまだ眠らず――

そして、夜の端で小さな哺乳類が息をしていた。

それが、未来への種火だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ