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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン17
2305/2364

第90章 《森の惑星 ― 酸素の支配者たち》



絶対年代:3.6〜2.9億年前(石炭紀)

24時間換算:15:00–16:00


Scene 1 15:00–15:15(約3.6億年前)/酸素の空


Ω-TERRAのドームが一瞬で色を変える。

空は深く、青というより**みどり**に近い。

酸素濃度――30%。

葉の表面は異常な速さで光合成を行い、大気中には微粒子の酸化物が舞っている。


チサ:「気圧1.3気圧、酸素濃度30%……。

 人間がここにいたら、一呼吸で意識を失うわ。」


スノーレン:「燃焼限界値に近い。――燃える惑星。」


圭太:「地球全体が酸素工場だ。」


タッキー:「データ確認。植物群は巨大化。葉面積指数8倍。

 呼吸量と光合成量が拮抗してる。」


夏樹:「空が深い緑に見えるのは、酸素の屈折率のせい?」


チサ:「ええ。空気が“濃い”の。生命が光を変えてしまった。」

彼らの前に広がるのは、シダとヒカゲノカズラが作る森の大聖堂。

太陽は高く、空気そのものが“生命の音”を響かせていた。


Scene 2 15:15–15:25(約3.4億年前)/樹海の呼吸


ドローンが森の上空を飛ぶ。

地上は40メートル級の木性シダが密生し、湿気が霧となって漂う。

一面が“呼吸している”。


チサ:「光合成速度、分単位で変動してる……森林全体が呼吸器官ね。」


タッキー:「気孔の開閉周期を観測。昼夜リズム、地軸傾斜周期と同期。」


圭太:「森そのものが、地球の肺だ。」


夏樹:「音が違う。風の音が……酸素の振動に聴こえる。」


スノーレン:「酸素濃度の上昇は、燃焼閾値を押し上げるが、同時に進化圧を高める。」


チサ:「この酸素の洪水が、次の生物を“巨大化”させるのね。」


圭太:「生きるって、呼吸の仕方を選ぶことなのかもな。」

木々の影で、巨大なトンボ――**メガネウラ(翼長70cm)**が舞い上がる。

羽音は風ではなく、空気の唸りそのものだった。


Scene 3 15:25–15:35(約3.2億年前)/燃える森


突然、雷光。

乾燥した木の樹液が爆ぜ、火が走る。

炎はあっという間に天へ伸び、酸素の海がそれを増幅させた。


タッキー:「酸素過剰時代の火災頻度――平均100年に1回。

 今の地球の10倍以上。」


チサ:「燃えることが、呼吸の延長線にある……。」


圭太:「酸素が命を与えて、同時に奪ってる。」


夏樹:「まるで地球が、自分の肺を焦がしてるみたい。」


スノーレン:「熱化学平衡のゆらぎ。燃焼は、地球の代謝活動の“発熱”段階。」

火は赤く、空は青緑に染まり、

森全体が――まるでひとつの巨大な呼吸器のように燃えていた。

その後、灰の上には新しい芽が伸びる。

酸素の循環が、再び始まる。


Scene 4 15:35–15:50(約3.1億年前)/昆虫の帝国


火の跡を越え、ドローンは湿地帯へ。

地面を這うムカシヤスデ、体長2メートル。

空を飛ぶメガネウラ。

木陰では、両生類から進化した初期爬虫類が、

まだ陸上に不慣れな呼吸を試している。


スノーレン:「酸素供給過剰。大型昆虫の気管系が過膨張。

 環境適応の“生理的限界点”に到達。」


チサ:「高酸素が、彼らの巨大化を許してるのね。」


夏樹:「酸素の過剰が“想像力”みたいなものを押し広げてる気がする。」


圭太:「でも、行きすぎた呼吸はいつか崩れる。――燃えるように。」


タッキー:「CO₂低下、全球平均気温マイナス5℃。

 氷期への傾向が始まってる。」


チサ:「酸素の祝祭の後には、静かな冷たさが来る……。」

森がざわめき、巨大な羽が夕光を裂いた。

その影は、まるで空そのものが生物になったかのようだった。


Scene 5 15:50–16:00(約2.9億年前)/酸素の果て


空の緑が、少しずつ褪せていく。

酸素濃度は減少へ転じ、二酸化炭素が戻り始めていた。

Ω-TERRAのドーム内では、ゆっくりと風が止まる。


チサ:「酸素濃度、30%から20%へ……。

 燃焼惑星の時代が、終わりに向かってる。」


タッキー:「火災減少、気温低下、氷床拡大。――炭素循環、再平衡。」


圭太:「呼吸が静かになると、世界も静かになるんだな。」


夏樹:「でもこの静けさが、哺乳類の祖たちの“夜”を育てる。」


スノーレン:「観測完了。――酸素文明、終息。地球は再び冷却局面へ。」


チサ:「生命の呼吸は止まらない。……ただ、リズムを変えるだけ。」


圭太:「森が夢を見てる。次は、何を生み出すんだろう。」

風がわずかに吹く。

その香りは、焦げた樹皮と湿った苔――

酸素の記憶だった。


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