表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン17
2292/2379

第77章 《灼熱の誕生 ― マグマの胎動》


絶対年代:46.0–44.0億年前(冥王代)

24時間換算:0:00–1:03


Scene 1 0:00–0:12(46.0–45.6億年前)/起動と出現


Ω-TERRAドームが開く。赤黒い光が壁を舐めるように走り、空間全体の温度が一気に上昇した。

チサが計測値を読み上げる。

「地表平均温度二千三百度、圧力一〇三気圧。構成気体はCO₂、H₂O、SO₂、微量のNa蒸気。」


圭太のフェイスシールドが曇る。

視界には、まだ陸も海もない。どこまでも続くマグマの海。鉄と硅酸塩が流動し、波打ち、泡立ち、

まるで呼吸するように地球が胎動していた。


タッキーが呟く。「比重分化開始。重元素が沈降している。中心温度、五千度を突破。」


スノーレンが淡々と報告する。「この段階では生命的定義は成立しない。

しかし化学構造は“進化前夜”の形を取っている。」


夏樹の声が震える。「これが、地球の“産声”か……」


Scene 2 0:12–0:24(45.6–45.0億年前)/衝突の雨


暗紅色の空を、金属質の閃光がいくつも貫いた。

直径十キロを超える隕石が連続して落下し、衝撃で地平線が揺れる。

衝突点の温度は瞬間的に六千度を超え、マントルが噴き上がり、

溶岩が環のように宙へ散った。


「これが“ジャイアント・インパクト”。」チサが声を上げる。


スノーレン:「月形成過程、開始。放出質量一・八%が衛星軌道へ。」


圭太がカメラを向ける。燃える雲海の上に、銀灰色の環がゆっくりと拡散していた。


夏樹:「空が生まれる前に、月が生まれたのね。」


タッキー:「重力安定まで三千年。――あれが“夜”をつくる種になる。」

熱波でスーツ外装が膨張し、ドーム警告灯が点滅。

「冷却ポンプ稼働、スーツ表面温度八百度。」圭太が汗を拭う。


Scene 3 0:24–0:36(45.0–44.8億年前)/内核の形成


映像ドローンが地殻深部を透過する。


タッキー:「鉄とニッケルが沈降、コア圧力三五〇万気圧。磁場シミュレーション発生。」


チサ:「これが“地球磁場”の始まりね。生命の盾が、まだ誰もいない世界で準備される。」


外殻の一部に黒曜岩の島片が浮かぶ。


夏樹が目を細める。「海じゃない、でも――“地面”がある。」


圭太:「温度は千八百度。歩けるわけがないのに、足を下ろしたくなるな。」

彼らのヘルメットに、青いノイズのような光が走った。


スノーレン:「太陽風のプラズマ干渉。磁場強度一・三ガウス、安定化傾向。」

大気の一部が渦を巻き、赤い霧の中で最初の風が吹いた。


Scene 4 0:36–0:48(44.8–44.3億年前)/赤の空と最初の影


気圧百倍の空気は光を散乱できず、太陽は赤く歪んで見える。


チサ:「酸化反応ゼロ。空はまだ“燃焼中”だ。」


圭太が地平線をズームする。「マントル上昇流、時速六百キロ。液体の山脈が動いてる。」


夏樹は黙って見ていた。「それでも、美しい。世界が全部、生きようとしている。」


スノーレン:「対流パターン解析――プレート運動の原型を検出。

未来の大陸配置を、この瞬間から予測可能。」


チサ:「そう。地球は、もう“動く”準備をしてる。」

赤い空の下、岩が冷え、初めて“影”ができた。


圭太が小声で言う。「この影の中に、未来の海が眠ってるんだな。」


Scene 5 0:48–1:03(44.3–44.0億年前)/冷却と沈黙


温度がわずかに下がる。タッキーが報告する。「地表平均、ついに千度を下回った。」

マグマの表層に黒い膜が広がり、冷却の兆候。

上空に灰白色の雲。センサーが示す水蒸気濃度増大。


チサ:「水分が凝縮を始めた。これが――雨の予兆。」


夏樹:「地球が、自分を冷やすために泣くのね。」


圭太が記録端末を閉じた。「ここからが“生き物のための世界”の準備期間か。」


スノーレン:「地表放射強度低下、平均輻射二四〇W/m²。条件達成。

次段階――液体の水、出現予測まで十万年。」

赤い光が暗転し、静寂が訪れる。


夏樹がヘルメットを外しかけて笑う。「……熱いコーヒー、飲みたくなるね。」


チサ:「0:40休憩予定、今がちょうどその時刻。水分補給を。」


五人は中央のテーブルで、冷却シールド越しにコーヒーパックを握った。

カフェインの香りが、硫黄と鉄の匂いに混じり、

人類史で最も早い“地球の夜明け前の休憩”が訪れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ