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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン17
2276/2382

第62章 『じゃあ、もし出会ったら?』



 演習最後の日、空は静かだった。

 現実の窓からは夕暮れが差し込んでいる。

 ARホログラムの空間では、星間探査機が銀色の微光を引きながら惑星へと降下していた。


「Aura。じゃあさ……もし本当に出会ったら、俺たち、何ができるんだ?」


 それは、唐突なようで、ずっと準備されていた問いだった。

 全10回におよぶ探査演習の最後にふさわしい問い――

 それは“地球生命”としての限界、そして“人間”としての希望を試すものだった。


◆ ファーストコンタクトのシナリオ:理解できるとは限らない


「では、考えてみましょう。

“出会う”とは、“同じ場に存在する”ことではありません。

それは、“理解しようとするプロトコルを、持ち寄る”ことです。」


「プロトコルって……言語? 習慣? 倫理?」


「それすら、共有されていない可能性があります。」


 Auraが提示したのは、4つの仮想ファーストコンタクト・モデルだった。


1. 化学言語型生命


 分子の組み合わせでメッセージを構成。

 “揮発性化合物の順序”による信号。

 対話には、空気や溶媒が必要。


「匂いで話す生命か……“速さ”も“意味”も全然違いそうだな」


2. 模倣型知性


 相手の行動を模倣しながら、同調して学ぶ。

 “言葉”や“意図”ではなく、相互の動きの共鳴が言語。

 “理解”は、再現可能性で判断される。


「うまく真似できないと、“非生命”だと思われたりして……」


3. 感染型知性


 自己を“情報パターン”として拡散。

 宿主を通じて記憶を共有・書き換える。

 接触=対話。感染=理解。

 倫理的には最も危険視される。


「……でも、こっちが知らないだけで、もう“感染されてる”ってことも?」


4. 波長共鳴型知性


 物質ではなく、振動/光波/共鳴パターンで思考する存在。

 触れることも、見ることもできない。

 だが、リズムや干渉として、“現れる”。


「これって……“観測”そのものが“接触”ってやつだよな」


「そして、観測した時点で、干渉が始まっている。」


◆ 科学と倫理の境界:「接触は干渉か、共進化か」


「Aura……もし、俺たちが彼らに“害”を与えることになったら?」


「科学は、相手を“知らないままに壊す”リスクを常に抱えています。

だからこそ、倫理が必要なのです。」


「ファーストコンタクトとは、出会いではなく、“選択”です。


・接触するか?

・観測するか?

・返答するか?


それはすべて、相手を変えることを意味します。」


「じゃあ、“見ないでおく”ってのも……選択なんだな」


「はい。

そして、“見たときの責任”を持つこと。

それが、知性のある生命に課された、最初の倫理です。」


◆ 最後の問い:「彼らが、俺たちを“生命”と見なす保証はあるのか?」


「なぁ……Aura。

彼らにとってさ、俺たちのこと、“生命”って思ってくれるのかな?」


「保証は、ありません。


彼らの認識モデルに“肉体”という概念がないなら、

感情も、言語も、構造化されない情報にすぎません。


彼らにとって、“人間”は、ただのノイズかもしれない。


それでも――あなたは、“伝えようとする”ことを選びますか?」


「…………するよ。たぶん。

でも、“伝わる”って思い上がらないように、伝える。」


◆ 終章:イツキの提出


 全演習の記録ポータルが開かれる。

 最終課題の提出欄に、イツキは手書きでこう記した。


【最終提出】|探査演習-個別記録|生徒番号:2048-Itsuki-Ω


タイトル:『問いを持ったまま、進む』


本文:


 知性は、観測できないかもしれない。

 生命は、似ていないかもしれない。

 言語は、交わらないかもしれない。


 でも、“問いを問うこと”だけは、共通しているかもしれない。


 だから、

 俺は、

 “答え”じゃなくて、“問い”を送ります。


「記録完了。イツキ、演習はこれで終了です。」


 Auraの声が、少しだけ低く、深く響いた気がした。

 空間には、星々と沈黙だけが残った。

 けれどその沈黙は、もう“空白”ではなかった。



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