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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン17
2273/2382

第59章 『進化しない生命もありうる?』



「Aura、ちょっと聞いていい?」


「もちろんです、イツキ。」


「……“進化しない生命”って、ありうるの?」


 一瞬の間。Auraはすぐには答えなかった。

 その間にイツキは、これまでに見てきた異星生命の姿を思い返していた。

 飛ぶもの、光るもの、振動するもの、鉄を食べるもの、自己を再構成するもの——。

 それらの根底にいつもあったのは、「環境に応じて変わってきた」という前提だった。


「よい問いです。

“進化する”とは、定義上“自己を複製し、その複製に変異が含まれ、その変異が選択される”ことです。

ですが、その3要素がすべて揃っていなくても、“生命的ふるまい”が可能な例は存在します。」


「……つまり、進化って“生命の必要条件”じゃない?」


「それを、今日の演習で考えていきましょう。」


◆ 検討①:「定常的自己複製構造」は生命か?


「まず、自己を“変化させずに”コピーする構造から考えます。」


 Auraはホログラムに、単純な分子の配列を映し出した。

 それは、同じ構造を繰り返し自己複製するテンプレート型の高分子鎖。

 変異も起こさず、反応速度も安定している。

 数十億年、まったく変わらず自己を保ち続けている。


「……それ、生命って言えるのか?」


「あなた次第です。

これは“変異しないRNAのようなもの”です。

適応性も多様性もありませんが、自己を維持し続けるという意味では、ある意味“極限の安定性”を持つ存在です。」


「でも、進化しないなら、環境が変わったら……すぐ絶滅するんじゃ?」


「そう。環境が“変わらなければ”、変化しないことは、むしろ“最適”なのです。」


◆ 検討②:「ミーム型生命」は進化と無関係?


「次に、“物質を持たずに拡散する生命的情報”を考えます。」


 Auraが表示したのは、人間の社会。

 言語、噂、神話、ジョーク、計算式、ウイルス的拡散モデル。

 情報だけが、身体を持たずに“複製”され、突然変異し、淘汰される。


「これ……SNSとかで回ってくるやつ?」


「はい。リチャード・ドーキンスが提唱した“ミーム”の概念です。

これは“遺伝子のない進化”のひとつ。

一見すると“進化”しているように見えますが、それは**自己変化によるものではなく、外部媒体の中でのみ“表現を変えている”**とも言えます。」


「ってことは、“内側”は変わってないけど、環境によって“出方”が変わってるってことか」


「その通りです。

実体が変わらず、適応だけが可変である存在——それも“進化しない進化”の一例かもしれません。」


◆ 検討③:「進化は時間の問題か?」


「……でもAura、それ、時間がめっちゃ長くなったら、やっぱり変わるんじゃない?」


「重要な視点です。

実際、“進化しないように見える存在”も、観測スケールを変えるとじわじわと変化していることがあります。」


 ホログラムが示すのは、メタン生成古細菌メタノジェン

 地球の極限環境で、数十億年前からほぼ形を変えていないと言われている存在。


「この生物群は、“進化が止まっている”ように見えます。

しかし実際は、非常にゆっくりした速度で、微細な変異を蓄積しています。

つまり、“進化しないように見える”のは、我々の時間感覚が短すぎるからです。」


「進化って、“変化すること”じゃなくて、“変化の方向性を持つこと”って感じ?」


「的確です。

進化とは、単なる変化ではなく、選択のある変化。

逆に言えば、選択がない環境では、変化しても進化しないということもありえます。」


◆ 最終演習:「進化しない異星生命体を設計せよ」


「最後に、仮想設計演習です。

あなたの前にあるのは、恒常環境です。

恒星は安定、大気も一定、温度変化もほぼゼロ。

その中で、進化しない生命体を“構想”してみてください。」


「……うーん。

じゃあ、情報は持たない。DNAもない。

でも、外からエネルギーを吸収して、自分のかたちを保つ“構造体”。

それを、そのまま“複製”するんだ……」


「さらに、“変異を起こすリスク”を避けるために、遺伝子は“固定モジュール型”にしてもいいですね。

修復酵素を超強化し、エラーチェック率99.9999%。

あなたが設計したのは、“エラーなき複製生命”です。」


「……でもAura、それって、**完全に“閉じた存在”**だよな」


「ええ。そしてその存在は、環境が変わらない限り、永遠に変わらないかもしれません。

ただし、それは“進化しない”という意味ではなく、

“変わる必要がない”ということです。」


「進化って、**“必要に応じて変わる能力”**なんだな……」


「まさにその通り。

そして、“必要性”とは、生命の内側にあるのではなく、外の世界との関係の中にあるのです。」


 ホログラムには、“静止した惑星”の映像が映っていた。

 ゆるやかに、一定の光と熱が降り注ぎ、流体がわずかに対流し、微細な構造が複製されるだけの世界。

 そこには、変化はあったが、進化はなかった。


「……たぶん俺、そういう星の生き物だったら、変化が怖くなってただろうな」


「進化とは、変化を“受け入れる知性”の現れでもあります。

だから、“進化しないこと”も、またひとつの進化かもしれない。」

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