表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン17
2272/2382

第58章 『生命の起源は地球だけ?』



「ねえ、Aura。……“最初の生命”って、どこで生まれたの?」


 演習が一区切りしたタイミングで、イツキはぽつりと問いを投げた。

 前章で自分なりに代謝する仮想生命を設計したあと、ふと湧いてきた疑問だった。


「良い問いですね。では、いくつかの“起源仮説”を、順に見ていきましょう。」


 Auraの声と共に、ホログラム空間に3つの風景が同時に展開された。


① 深海熱水噴出孔仮説(Hydrothermal Vent Theory)


 海底深く、黒くうごめく熱水の柱。

 その周囲には、微生物、管状の生物、バクテリアのマット。

 生命が存在し得ないと思われていた“深海の闇”の中で、明確な生態系が構築されていた。


「ここでは、マグマの熱で加熱された海水が、鉱物成分と化学反応を起こしながら噴出します。

これによって、鉄・硫黄・水素・CO₂などが集中し、化学エネルギー源として使われる“非光合成型の代謝環境”が成立します。」


「つまり……光がなくても、エネルギーさえあれば生命は生まれる?」


「そういうことです。現実に、“鉄酸化細菌”や“メタン生成菌”はこうした環境で活動しています。」


② RNAワールド仮説(RNA World Hypothesis)


 次に映し出されたのは、粘性のある液体の中で揺らぐ微細な分子たち。

 中でも一群の鎖が、くるりと折り畳まれて立体的な構造を取る。


「こちらは、“生命の最初はRNAだった”という仮説です。

RNAは、情報の保存(DNAのように)と、化学反応の触媒(酵素のように)の両方の性質を持ちます。

この二重の機能が、“複製し、進化する化学構造”の出発点だったという考えです。」


「……ってことは、DNAもタンパク質も、あとから?」


「はい。“生命”が最初から今のような複雑さを持っていたわけではなく、むしろ進化によって“より不安定な仕組み”から積み重ねられてきたのです。」


③ パンスペルミア仮説(Panspermia Hypothesis)


 画面が切り替わり、宇宙空間を漂う無数の小天体たちが現れた。

 その中のひとつが、大気を燃やしながら地球へと降りてくる。


「この仮説では、生命の起源は“地球の外”にあるとされます。

隕石や宇宙塵、さらには微生物自体が、宇宙空間を経て地球に到達した可能性です。」


「それって……火星とか、他の星からってこと?」


「はい。実際、火星由来の隕石ALH84001などが“微生物の化石かもしれない”と議論されたのはこの文脈の一部です。」


「じゃあさ、Aura……もし火星で、“地球の初期生命にそっくりなもの”が見つかったら、どうする?」


「それは非常に大きな問いです。

“そっくり”ということは、同じ“祖先”から分かれた可能性があります。

つまり、地球と火星が“進化的に兄弟関係にある”という仮説が浮かびます。」


「……それって、“地球の生命が火星から来た”ってこと?」


「あるいは、その逆かもしれません。

どちらにしても、**共通祖先(LUCA)**の存在が鍵になります。」


 表示が変わる。

 系統樹の根元、“LUCA”と呼ばれる点。そこから、真核生物・真正細菌・古細菌の三つの大きな枝が広がっていく。


「LUCA(Last Universal Common Ancestor)=“最後の共通祖先”は、地球生命すべてが進化の過程で辿った最も古い“交差点”です。

ただし、LUCAは“最初の生命”ではなく、“現在の生命系統の最も若い共通祖先”です。」


「……ってことは、LUCAの“前”がいるってこと?」


「はい。LUCAの前段階には、複数の原始系統が存在した可能性があり、それらの中の一つが“勝ち残った”。

逆にいえば、“他にもあったのに、すべて淘汰された”可能性もあります。」


 イツキは、ゆっくりと深呼吸した。

 画面のなかで、系統樹の根が、惑星の岩層のように重なっていく。


「……もしその“前”が、火星にまだ残ってたら?」


「それが、“地球外LUCA”仮説です。

つまり、LUCA以前の祖先が火星に生まれ、何らかの形で地球に到達し、地球の環境で進化を加速させた。

火星には“兄”が、地球には“弟”が残った、という仮説です。」


「……うわ、なんか、自分のルーツがひっくり返る感じする」


「それが“起源”という問いの本質です。

私たちは、自分がどこから来たのかを知ることで、自分が何者なのかを再定義しようとする。」


 画面には、今なお答えの出ていない問いが並ぶ:

•生命は、一度だけ生まれたのか?

•生命のレシピは、普遍的なのか?

•「起源」とは、時間の問題か、場所の問題か?


「ねぇAura。……“起源”って、そんなに大事なのかな?」


「それは、“偶然と必然”を区別したいという人間の本能かもしれません。

起源が“偶然”なら、“私たちはたまたまいる”だけ。

起源が“必然”なら、“宇宙には私たちのような存在が他にもいる”可能性が高まります。」


「なるほど。

でもどっちにしても、俺らは、“そこから続いてる存在”なんだよな?」


「はい。

そして、あなたは“自分がどこから来たか”を問うことで、次に“どこへ向かうか”を考えるようになります。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ