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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン17

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第51章 《共生圏》「姿勢と感染」




場所:スイス・ジュネーブ郊外。国際進化学研究所・別館ラウンジ。

冬の午後、ガラス張りの窓から湖畔の白い霧が立ち上っている。

テーブルには、ホログラフィックの人体骨格投影と、ウイルス遺伝子挿入のシミュレーションログが広がっていた。


チサ(落ち着いた声)

「直立歩行の話から始めようか。

 単に移動効率のためだけじゃない。

 **“病原体から離れるため”**っていうの、意外だった?」


タッキー(腕を組み、端末を操作しながら)

「足裏の接地面が減ることで、土壌病原体への接触リスクが減少。

 それに伴い、手が自由になる。

 つまり直立は、感染回避戦略でもあったということです。論理的です」


圭太(コーヒーを啜りながら、皮肉っぽく)

「そりゃまあ、ウイルスのついた土に手突っ込んで、目こすればアウトだからな。

 でも昔の人類がそこまで考えて立ち上がったのかね?」


夏樹(窓の外を見ながら振り向く)

「でも、実際そうなってたんでしょ?

 直立したことで手が使えるようになって、道具が生まれて、

 でもその分、肉食とか集団生活が進んで、**“感染しやすくもなった”**んだよね?」


タッキー(頷きながら)

「はい。実際、HLA遺伝子の多様化はその時期に集中しています。

 集団内でのウイルス伝播圧が上昇した証拠です。

 また、胎盤形成に使われている“シンシチン”はレトロウイルス由来遺伝子です。

 感染が、進化の部品として使われたわけです」


スノーレン(ゆっくりした声で、資料も見ずに)

「つまり、“敵”だったウイルスが、身体の一部になった。

 構造が変わったということだね。

 拒絶しなかった、というより――たぶん、できなかったんだ」


(沈黙が落ちる。チサが視線を投げる)


チサ

「スノーレン、それは“ミトコンドリア”の話と重ねてるの?」


スノーレン(小さく頷く)

「そう。ウイルスよりも前に、もっと深い“侵入”があった。

 細胞の中に、酸素を使ってATPをつくる細胞が入り込んだ。

 それを排除できなかった。むしろ、そのおかげで“今の私たち”がある。

 ……そういう話だったよね?」


圭太(天井を見ながら)

「ミトコンドリアな。知ってるぞ、元は細菌だったんだろ。

 いまでも勝手に分裂してるし。

 あれだ、会社にいる“独立採算部門”みたいなもんだな」


夏樹(笑いながら)

「でも、その部門がなかったら、全身がエネルギー切れ起こすんだから、

 めっちゃ重要な部署じゃん!」


タッキー(手元のホログラムを操作)

「この“取り込まれた異物が内部で働く構造”――

 それを経験したのは、生命史の中で一度だけです。

 その成功がなければ、神経系も、意識も、言語も生まれなかった。

 ……直立も、生殖も、感染も、すべては“共生”の上に積み重ねられた」


チサが静かに目を閉じる。

「その“共生”を、今、火星のあれがもう一度迫ってるとしたら……?」


スノーレンが、ただ一言。

「選ばされるんだよ。前と同じようにね。

 構造が変わるか、消えるかのどちらかだ」



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