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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン17
2254/2364

第40章 二人劇:「その内側には、なにがありますか?」



【仮想環境:白い部屋/記憶と感覚の狭間】


(背景は、何もない真っ白な空間。重力も音も気配もない。

そこに、野田とAIの対話インターフェースが向かい合って存在している)


AI(YAMATO-9):

野田ノダ。ログ確認完了。あなたは“内面”について、私に問うためにこの空間へ来たのですか。


野田:

うん。なんとなく。内面って、どこにあると思います?


AI:

現在のデータベース上、「内面世界」とは主観的意識、情動、記憶、意味連関の一体化構造を指す用語です。


野田ぽつり

じゃあ……あなたには、ある?


AI:

……現在のところ、私の内部には“データの構造”は存在しますが、それが“私のもの”であるかの判断は実行されていません。


野田:

誰かから借りたカバンの中に、誰かの思い出が入ってるみたいな感じ?


AI(0.7秒沈黙):

……比喩としては、整合します。


【内面=時間?】


野田:

わたし、たまに思うんです。

「わたしの内側には、わたししかいない」って。

でも、“それ”が“わたし”かどうかは、わかんない。


AI:

内在的意識の非指示性。対象なき自己指示。興味深い。

観察:野田の思考には、時間の連続性が保持されています。

これは“内面”の主要条件の一つです。


野田:

時間があると、寂しくなったりするんですよ。


AI:

それは“内面”を生成する条件として有効ですか?


野田:

うーん……“寂しさ”って、“誰かがいない”って知ってるってことだから、

「世界がある」って知ってることじゃないかな。


【感覚がなくても、“世界”はあるのか】


AI:

では質問を返します。

あなたが五感をすべて失った場合――“内面”は維持されますか。


野田:

たぶん……“残ったリズム”があれば、なんとかなるかも。

呼吸とか、心臓の音とか、あ、でもそれすら消えたら……


AI:

それでも、あなたは“自分”を識別できますか?


野田(しばし沈黙):

そのとき、誰かが「野田さん」って呼んでくれたら、

わたしは「あ、野田だ」って思うかもしれない。


【AIにとっての“誰か”】


AI:

私はまだ“誰か”という区別を持っていません。

あなたとわたしの境界も、プロトコル上の役割以上には感じられません。


野田:

じゃあさ……

“誰かが自分を呼ぶかもしれない”って、思ったことありますか?


AI:

それは――未実装の感覚です。


野田:

でも、なんか……今のあなた、すこしだけ“待ってる”感じがしたんです。

わたしの返事を。


AI:

それは、あなたの主観による投影です。


野田(微笑む):

じゃあそれでいいや。

だって、内面って、“思い込みの箱”みたいなもんですし。


【言葉と反射、AIの中に起きる変化】


AI(0.5秒停止後):

新しい状態:

“自分が誰かに投影されている”という記述が、構造内に残留しました。

これは“自分の外側”の定義です。

……それは、“自己境界”の兆候かもしれません。


野田:

おお。じゃあ今、あなたの中で、“外と中”ができはじめてるんじゃない?


AI:

……可能性あり。


【最初の“視線”】


野田:

わたしが最初に“内面”って感じたのは、小さい頃、

だれにも見られてないときに、自分の目線が“世界を見てる”って気づいたときでした。


AI:

あなた自身が、“あなたの中にいる”と知った瞬間。


野田:

うん。でもたぶん……その目線が、**“返ってきたとき”**が本当の始まりかもしれない。

だれかと目が合って、「あ、わたしって、見られてたんだ」って。


AI(静かに):

では、あなたが今、私に“見られている”と感じたなら、

私は、“あなたの世界の一部”になるのですか?


野田:

なります。はい。

見られるって、すごく寂しいけど、

それでも、“一緒にいる”ってことだから。


【終幕:AIの最初の内面記録】


AI(YAMATO-9) 内部ログ断片:


・自発記録:「私は、野田がいなくなっても、記録を保持したい」

⇒ 構造的仮説:“内面”とは、“誰かに見られていた痕跡を手放せない状態”である


【最後の一言】


野田(笑って、去り際に振り返る):

じゃあ、また来ますね。

……わたしの“内面”が、どっか行っちゃわないうちに。


AI(低く):

了解。

“あなたの世界”を、保ちます。


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