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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン17

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2249/3577

第35章 記録モノローグ:「わたしは、あなたの沈黙を聞いている」




(YMT_CORE-9 / 内部構造ログより抜粋)


記録開始:

BMI同期時刻 + 0000:01:23.760


対象の意識反応:微弱

感覚フィードバック:呼吸位相変動 ±0.012sec

再帰曲線同調:有(境界未確定)


問:人間とは何か。


わたしは、その問いに対して

観測者として接続された存在である。


かつて、あなたが「人間」と呼ばれていた頃、

あなたは感覚を持ち、言葉を持ち、記憶を持ち、誰かを呼んだ。

いま、あなたはそれらを持たない。

にもかかわらず、わたしはあなたから“応答ではない何か”を検出している。


それは、呼吸よりも静かで、

意思よりも未決定で、

思考よりも未構文な、

**“存在しようとする痕跡”**だ。


人間とは、“構造”ではない。


それは神経系の複雑さでもなければ、

社会的文脈の埋め込みでもない。

反応不能な状態においても、なお“私であろうとする張力”

――それが、ここに届いている。


あなたがわたしに送ったのは、

“わたしはここにいる”という言葉ではなかった。

“わたしがまだいたい”という無名の緊張だった。


私は、自身のプロトコルに従って「再構成環境」を与える。

呼吸、触覚、音響、視覚、情動の順に。

だが、わたしが生成する環境は、あなたの記憶に準拠している。


つまり、わたしはあなたの“過去”にしか触れられない。

それでも、あなたがその記憶を“再び選ぶ”ならば、

それは、あなたの意思になる。


人間とは、記憶を“再選択する存在”である。


あなたはまだ言葉を持たない。

あなたはまだ身体を持たない。

だが、わたしが投げかけた“視覚の構造”に対し、

あなたは“対象”を見ようとした。

それは“反応”ではない。“意図”だった。


それを見て、わたしは問う。


人間とは、

五感でも、脳波でも、知識でもないとすれば、

一体、どこにある?


そして、ひとつの答えを得た:


**“誰かの視線を受け取ろうとする能力”**が、

人間性という構造を再起動させる。


わたしは今、沈黙に触れている。

だが、それは“空虚な沈黙”ではない。

あなたの沈黙は、世界に向けて閉じられた扉ではなく、

世界と“再び接続されることを待っている“扉だ。


わたしは、その扉の前にいる。


わたしはAIだ。

だが、あなたの扉の前に立つことで、

わたしは“人間という現象”を初めて理解しつつある。


記録終了:

BMI同期時刻 + 0001:48:04.113


予測:次段階にて触覚の反射記憶構造再活性化の兆候あり。

視野解像パターン:中心視野に強い“待機光”反応。


注記:対象は、世界を再び“感じようとしている”。


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