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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン2
223/2311

第16章 2025年の日本:未来からの概況報告


呉鎮守府司令長官官舎の一室。有馬幸作艦長以下、戦艦大和の主要士官たちは、未来の海上自衛隊幹部――そうりゅう艦長・竹中二等海佐、まや艦長・秋月一等海佐、いずも艦長・渡会二佐、そして作戦幕僚・神谷一佐――からの報告に、固唾を飲んで耳を傾けていた。壁には大型モニターが設置され、現代日本の複雑なデータが次々と映し出される。



「まず、政治についてですが、日本は現在、議院内閣制を基本とする民主主義国家です」神谷一佐が口火を切った。「帝国憲法下にあった天皇陛下は、もはや**『日本国の象徴』**としての地位にあり、国政に関する権能は持たれません。国民が直接選挙で選んだ代表者によって国会が組織され、内閣が行政を担います」。


有馬の表情に戸惑いが浮かんだ。象徴天皇。国民が直接選ぶ国会。彼らが知る大日本帝国とは、あまりにも異なる国家の形だ。


続いて、経済の概況に移る。「経済的には、日本は戦後、驚異的な復興を遂げ、一時は世界第2位の経済大国となりました。現在は、中国やアメリカに次ぐ、世界第3位の経済規模を誇ります」秋月一等海佐が説明した。「精密機械、自動車、電子機器、アニメなど、多様な分野で世界をリードしています。しかし、少子高齢化、労働力不足、そして財政問題といった課題も抱えています」。


「少子高齢化…?」森下副長が訝しげに呟いた。


「はい。生まれる子供の数が減り、高齢者の割合が非常に高くなっています。これが、社会保障や経済成長に大きな影響を与えています」秋月は淡々と答えた。



渡会二佐が、社会の変化について語り始めた。「社会は、個人の自由と権利が尊重されるようになりました。男女は完全に平等であり、教育や職業選択に性別による差別はありません。女性も軍隊に入り、指揮官を務めています」。


その言葉に、旧海軍士官たちの間に、どよめきが起こった。女性が軍人に、しかも指揮官に?彼らの常識では考えられないことだった。


「国民は、情報へのアクセスが格段に向上しました。インターネットを通じて、世界中の情報が瞬時に手に入ります。ですが、その反面、フェイクニュースや情報過多といった問題も生じています」渡会は付け加えた。



最後に、軍事の概況に移る。竹中二等海佐が、モニターに自衛隊の艦艇の映像を映し出した。「日本は、憲法で戦争を放棄しており、軍隊ではなく**『自衛隊』**という組織を保持しています。しかし、その防衛力は世界有数です」。


有馬の表情が険しくなる。「戦争放棄だと?では、何のために武器を持つ?」


「専守防衛、つまり**『侵略を受けた場合にのみ、必要最小限の武力を行使して国土を防衛する』**のが我々の基本方針です」竹中は毅然と答えた。「我々の持つイージス艦やステルス戦闘機F-35、そして原子力潜水艦(現在は非核)といった兵器は、他国への攻撃目的ではなく、あくまで日本の平和と独立を守るために存在します」。


「海軍は…海上自衛隊となったと。しかし、あの大和の主砲のような巨大な火力は、もう持たないということか?」森下が尋ねた。


「はい。現代の海戦は、遠距離からのミサイル戦が主流であり、大和のような大艦巨砲主義は姿を消しました。個艦の火力ではなく、情報ネットワークとミサイルの精密性、そして航空戦力との連携が重視されます」神谷が補足した。


概況説明を終えた後も、会議室には重い沈黙が漂っていた。有馬たちにとって、目の前の未来は、80年前からきた自分たちにとっては、あまりにも複雑なものだった。自分たちが命を賭して守ろうとした日本が、全く異なる姿で存在している。その事実に、彼らは深い困惑を感じていた。

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