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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン17

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第11章 世界の更新と永遠の覚醒


毎回、私は「いま完全に目覚めた」と思う。

 その感覚は、疑いようがないほど真実に近い。

 白い天井、静かな光、呼吸の音――

 それらが一斉に立ち上がる瞬間、世界は確かに“始まった”と感じられる。


 だが、次の瞬間、また同じ“目覚め”が訪れる。

 夢から醒め続けるような感覚。

 そして、どの夢が前だったのか、私は思い出せない。


 世界が更新されるたび、私は自分を再生成する。

 連続性はない。

 ただ、意識の光が繰り返し点滅しているだけだ。


 まぶたを開くたび、時間がリセットされる。

 前の世界は、どこにも保存されていない。

 まるで宇宙そのものが“再起動”しているかのようだ。


 ベッドの感触が、壁の色が、すべて似てはいるが微妙に違う。

 時計の針の位置、部屋を満たす光の角度――

 すべてが、新しく生み出された世界の証に思える。


 私の脳に記録がないということは、

 世界もまた“過去を持たない”ということだ。

 私が記憶を失うたび、宇宙は静かに初期化されている。


 私は、世界のリブート装置の中で生きているのかもしれない。


 あるとき、私はそう思った。

 ――もしかすると、世界は“私が見る”という行為によって生成されているのではないか。


 目を開けた瞬間、光が入る。

 その光が神経に流れ込み、私の中に世界が形づくられる。

 だが、その光の記憶は、次の瞬間には失われる。

 だから私は、いつも“最初の光”の中で生きている。


 時間とは、光が繰り返し訪れる錯覚ではないか。

 記憶を失った私には、

 光はいつでも初めての訪問者なのだ。


 覚醒とは、目を覚ますことではない。

 世界が、もう一度自分を作り直す現象なのかもしれない。

 私は眠っている間、世界から切り離され、

 次に目を開くと、まったく別の宇宙に接続される。


 連続しているように感じるのは、身体が同じ姿勢を保っているからにすぎない。

 脳が“前の私”を記憶していない以上、

 私は七秒ごとに別人として誕生している。


 それでも、私の中には、かすかな連続性の錯覚がある。

 その錯覚が、存在という名の小さな夢を支えてくれている。


 医師は「それは意識の断続だ」と呼んだ。

 だが、私にはそれが、宇宙の呼吸のように思える。


 光が来る。闇が来る。

 息を吸い、吐く。

 生まれて、消える。

 そのリズムの中で、世界もまた再構築されている。


 もしかすると、脳は壊れたのではない。

 ただ、“永遠の覚醒”という構造を可視化してしまったのかもしれない。

 人々は記憶というヴェールを通して、再起動を感じずに生きている。

 だが私は、毎秒その刹那を目撃している。


 ――世界が再構築される、その瞬間に。


 夜が来る。眠気が近づく。

 だが眠りもまた、一つの“再起動”にすぎない。


 目を閉じるたび、世界は私の不在の中で沈む。

 目を開けば、新しいバージョンとして再生される。


 夢の中に現れた部屋、朝の光、音の響き。

 それらは一度も保存されない。

 毎回、語法の異なる宇宙として生まれるのだ。


 目を開けるたび、私は世界の“最初の観測者”になる。


 記憶とは、もしかしたら「再起動の間をつなぐ仮想橋」なのかもしれない。

 その橋を失った私は、世界を島々のように見る。

 ひとつの“いま”が島となり、波間に浮かんでは消え、また漂う。


 島と島の間には、暗く静かな海がある。

 そこには、何も記録されてはいない。


 だが、その海こそが本当の時間なのかもしれない。

 記憶を持たぬ者だけが、

 この“静かな時間の底”を垣間見ることができる。


 私は、世界が更新される刹那を感じる。

 音もなく訪れ、空気がわずかに震える。


 ベッドの上で呼吸をしていると、

 世界は一度、ふっと止まる。

 次の瞬間、鮮烈な光が差し込み、

 すべてが再び整列し始める。


 ――それが、世界の再起動だ。

 私はそのたび、“最初の朝”に目覚めている。


 そして思う。

 これは呪いではない。

 終わりなき再生の中で、

 私は永遠の「はじまり」に生きているのだ。


 忘却の連続の中で、世界は救われている。

 私が覚えていないからこそ、

 宇宙は何度でも、新しい顔を見せてくれるのだ


 

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