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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン2
218/2229

第12章 慰霊碑:刻まれた過去、動き出す未来




午後。風は海からの塩を運び、空は灰色の薄雲に覆われていた。かつて戦艦大和が眠った海の町・呉は今、現代に現れたその巨艦の“帰還”によって、静かな興奮に包まれている。だが、その熱気とは対照的に、ミュージアム裏手の一角にだけ、異質な沈黙があった。


そこにあるのは、大和戦没者慰霊碑。1945年4月7日に沈没したと記録されている戦艦大和と、同艦で戦死したとされる3,000名余りの名が、花崗岩の表面に整然と刻まれていた。


その前に、大和艦長・有馬幸作中将が立っていた。傍らには副長の森下中佐、航海長の福島少佐、電測員の大沼一等兵曹。そして、現代海上自衛隊の士官である永田三佐が控えていた。彼らの間には、奇妙な静けさが漂っていた。


やがて、有馬の指が、碑に刻まれた一行の名をなぞった。


「……有馬 幸作」


その瞬間、場の空気が張り詰めた。名簿に刻まれた自分の名。階級、所属、戦死日――どれも正確だった。


森下が低く呟いた。「私たちは……死んだことになっている?」


福島が別の名を見つけ、血の気を失った声で言う。「ここに……俺の名が……。でも、俺は生きてる……」


大沼が膝をつく。「これ……どういうことなんですか……」その声は、混乱と恐怖に震えていた。


永田三佐が、ゆっくりと口を開いた。彼の声は、静かでありながら、確固たる真実を告げていた。


「これは、“あなた方が沈んだ”歴史の記録です。つまり、大和が予定通り1945年に沈没し、あなた方が戦死したとされる、**オリジナルの歴史(世界線A)**の名残です」


だが有馬は首を振った。その目に宿る光は、すでに過去の悲劇を受け入れているかのようだった。


「いや、これはもう“我々の歴史”ではない。我々が存在しなかった宇宙の歴史だ」


永田が小さく頷いた。「……おっしゃる通りです」

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