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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン2
215/2172

第10章 呉鎮守府司令長官官舎 二つの魂の再会


2025年4月1日の夜明けが近づく中、呉軍港に停泊する戦艦大和は、その巨体を静かに横たえていた。そして、港を見下ろす高台に位置する旧呉鎮守府司令長官官舎――明治時代に建てられたその歴史ある洋館は、80年の時を超えて、再び日本の命運を左右する舞台となっていた。


蛍光灯の白い光が、伝統的な木造建築の内部に広がる大会議室を照らし出す。その重厚な長机には、旧日本海軍の将校たちと、未来の日本の防衛を担う海上自衛隊の精鋭たちが対峙していた。ここは、かつて帝国海軍の最高幹部が作戦を練り、歴史的決断を下した場所であり、昭和40年代(1965年)にも海上自衛隊の重要な施設として使われ続けていた、まさに**「生きた歴史の証人」**ともいうべき場所だった。


「……まさか、再びこうして相見えるとはな」


大和艦長・有馬幸作は、目の前に立つ自衛官たちを、一人ひとりじっと見つめながら、静かに呟いた。彼の眼差しは鋭く、しかしその奥には、深い感慨の色が浮かんでいた。彼らが救助した「そうりゅう」の乗員たちだけでなく、「まや」艦長・秋月一佐、副長・永田三佐、「いずも」艦長・渡会二佐、そして作戦幕僚・神谷一佐までが、ここにいた。未来の日本を象徴する、最高レベルの将校たちだ。


「貴官らが未来から来たという話は…すでに我々も承知している。あの沖縄の地で、貴官らと共に戦った四ヶ月間は、我々にとって、まさに奇跡の日々であった。あの砲声、あの血潮、そして共に見た夜明けの光景……貴官らの艦がこの大和の窮地を救い、我々が米軍に大勝したことは、この目で見た紛れもない事実だ」


有馬は、そう言って、遠い目をするかのように感慨深い視線を送った。彼の言葉に、副長・森下耕作も深く頷く。彼らが目の前にいるのは、日本の国を守る、武士の誇りを持った者たちだ。その制服も、階級章も、彼らが知るものとは全く違っていた。それでも、共に死線を潜り抜け、未来を語り合った「戦友」であることに変わりはなかった。あの四ヶ月間は、彼らの魂に深く刻み込まれていた。


「艦長、あの時は本当にありがとうございました。あなた方と共闘できたこと、我々にとって生涯の誇りです」


そうりゅう艦長・竹中二等海佐が、一歩前に進み出た。彼の言葉は、穏やかでありながらも、確固たる感謝と敬意が込められていた。彼の脳裏にも、沖縄の灼熱の戦場、大和の巨砲の轟音、そして共に夜空を見上げた静かな時間が鮮やかに蘇る。


「我々が日米合同演習中に光の渦に巻き込まれ、昭和20年へとタイムスリップしたこと、そしてその未来の知識と技術をもって、あなた方と共に米軍と戦ったこと。あの戦いが、まさしくその証拠でしょう。潜水艦そうりゅうと伊58による原爆阻止作戦、いずもとむらさめによるロナルド・レーガンへの『背水の陣』…全てが、我々の記憶に、そして魂に、鮮明に刻み込まれています」


竹中の言葉に、有馬と森下の表情が、当時の激戦を思い出すかのように引き締まった。彼らは、未来の技術と知識を持った自衛官たちと共に、想像を絶する戦いを繰り広げたのだ。それは、単なる戦いではなく、時を超えた絆が生まれた瞬間だった。


「貴官らは…未来の日本を守るために、過去に介入したと…?」


有馬の声に、苦渋の色が滲む。彼らの戦いが、未来にどのような影響を与えたのか、その重みが彼らの肩にのしかかる。


「我々は、あなた方が命を賭して守ろうとした日本が、平和な、豊かな国になったことを知っています。その未来を、あなた方に伝えたいのです」永田三佐が、感情を抑えきれない声で続けた。


「我々が未来で戦死した仲間を、この目で見てきた。80年の時を経て、ここに帰還したことは、我々にとって、悲願であり、そして…重い責任でもあります」


そうりゅうの通信士官である斎藤三尉は、目に涙を浮かべながら、手元のタブレット端末を、有馬たちの方に向けた。そこには、大和の艦影を囲む、流線型の最新鋭艦艇の映像が映し出されていた。


「これが…未来の我々が守る、日本の海上防衛力です」


有馬は、その映像を食い入るように見つめた。そこには、彼が命を賭して守ろうとした「大和」の魂を受け継いだ、新たな日本の姿があった。それは、彼らの戦いが無駄ではなかったという、何よりの証拠だった。


「……そうか」有馬は、静かに頷いた。「ならば、聞かせてもらおうか。我々が知るべき、未来の日本の物語を」




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