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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン16
2093/2187

第46章  個別対応アルゴリズムの実装と最終決戦


いよいよ新歓イベント本番を明日に控え、会議室には熱気と、低周波音発生装置が発する微かな振動が充満していた。伊藤さんが開発した、新入生の「いいね!」に基づく個別対応アルゴリズムの最終チェックが行われている。


伊藤さん: (ノートPCの画面を指し示しながら)「新入生AのSNSデータに基づき、『神経症傾向』スコアは8.5。『外向性』スコアは2.1。つまり、非常に不安を感じやすく、孤独を恐れる内向的な人物です。この人物へのサクラ役の個別メッセージは、『私たちは、あなたをずっと待っていました。やっと見つけましたよ、この星で一番輝いているあなたを』。温かいココアを渡すタイミングは、低周波音停止から0.8秒後。これが安心感への錯誤帰属を最も強固にする最適値です。」


主任: (冷風機の風量メーターを凝視し、汗だく)「待ってくれッス、伊藤さん!そのメッセージ、ストーカーじゃないッスか!無意識に愛を刷り込むって言うより、恐怖を上書きしてるだけじゃないッスか!しかも、冷風機の調整も大変ッス!新入生Aのスコア8.5に合わせて、風量も8.5%…ではなく、0.1%単位で逆相関調整しなければならないなんて、俺はもうエンジニア兼カウンセラーッスよ!」


課長: (満足げに頷く)「主任。愛と恐怖は、裏表一体です。新入生Aは、8つの要素のうち『神経症傾向』が非常に高い。彼らにとって『あなたをずっと待っていた』という言葉は、孤独な物語の主人公に差し伸べられた奇跡の救いの手なんです。この絶望からの解放こそが、彼らの無意識に『浮遊感』を刷り込む物語の燃料になります。」


渡辺さん: (アルゴリズムのコードレビューを行いながら)「この個別対応アルゴリズムは、ビッグファイブを応用したケンブリッジ・アナリティカのプロファイリングを模倣していますが、完璧ではありません。しかし、その不完全さが重要です。人間は、完璧なデータではなく、隙間のある物語にこそ感情移入する。このデータに潜む曖昧な3%こそが、手品師の創造の余地です。」


佐藤くん: (冷風機の前に立ち、全力で息を吹きかける)「3%!俺の全力の息が、その3%の隙間を埋めるッス!課長!俺、冷風機の誤差調整役を志願するッス!機械には出せない熱い情熱の風を届けるッス!」


主任:「やめてくれ佐藤くん!君の息は風量調整のノイズになるッス!ていうか、猫耳サクラ役は誰がやるッスか?小林さんのカワイイ圧じゃ、神経症傾向の高い新入生は逃げるッスよ!」


小林さん: 「(少し落ち込みつつも、すぐに立ち直る)でも、私はカワイイは個性を信じてるッス!私の『外向性』は新入生に元気を与えられるッス!せめて、サクラ役が着る猫耳のデザインだけは、私がプロデュースさせてほしいッス!ふわふわでキラキラな宇宙遊泳猫のデザインで!」


高橋さん: (包み紙に包まれた、手作りの菓子をテーブルに置く)「小林さんの『外向性』は、確かに刺激が強すぎるかもしれないね。吊り橋実験で魅力的な女性でないと効果がないように、サクラ役は魅力的でありながら、同時に落ち着きが必要。さて、これが今回の記憶の保存技術。温かい煎餅だよ。熱い煎餅を手のひらで感じる。そして、その後に冷たい風が当たって『不安』を感じる。温かさによる錯誤帰属で、その不安を『このサークルへの期待』だと勘違いさせるの。」


課長:「(高橋さんの煎餅を手に取り、感心したように)素晴らしい。物理的な温かさは、無意識への最も古く、最も強力な刺激です。着ぐるみや過度な猫耳は不要。サクラ役は、最もバランスの取れたパーソナリティを持つ人物でなければならない。」

課長は、会議室のメンバーを一人ひとり見渡した。


課長:「サクラ役は、私と渡辺さんが共同で務めます。私が物語の創造者として最も『外向的』な役割を、渡辺さんがアルゴリズムの実行者として最も『誠実性』と『協調性』の高い役割を担う。」


主任:「ええっ!課長と渡辺さんのWサクラ役ッスか!?あの、渡辺さんの内向性が強すぎて、新入生が無言の圧力を感じるんじゃないッスか…?」


渡辺さん: 「(淡々とした声で)内向性は、無意識にとって『信頼』に帰属されます。私が話すのは、アルゴリズムが生成した、その個人だけに向けた8つの要素に基づく言葉。そこに感情は不要です。必要なのは、真実味です。」


課長:「そう、渡辺さんは真実の語り部。そして主任。君は、真実の温度を操る者です。君の冷風調整は、新入生の魂を揺さぶる0.1%の微調整にかかっている。そして佐藤くん、君の熱意は非常時のために。もしアルゴリズムがフリーズしたら、君の熱い息で空気を温め、事故を愛に錯誤帰属させてください。」


佐藤くん:「(感動して涙ぐむ)非常時の愛のブロワー!俺、やりますッス!全身全霊で、熱意を無意識に届けるッス!」


小林さん: 「私は、会場の飾り付けで、新入生の経験への開放性を刺激します!カワイイ装飾は、新しい環境への警戒心を解く、強力な魔法ですよ!」


高橋さん: 「(温かい煎餅を一口食べながら)よし。全員の8つの要素が、このイリュージョンを支えているね。手品サークルは、人間のパーソナリティそのものを操るサークルになったということだ。」


課長:「無意識とは、すなわち魂が生きる物語です。私たちは、新入生に『私は何者か?』という、人類史上最大の謎への手がかりを与える。そのために、この低周波音、冷風、温かいココア、そして個別メッセージが必要なのです。主任、あなたの誠実性が、この奇跡を起こす鍵です。準備はよろしいですか?」


主任: 「(低周波音と高額な予算、そして重すぎる責任に押しつぶされそうになりながらも、覚悟を決めた顔で)…了解ッス!無意識を操る精密機械技師として、本番に臨むッス!」


課長は満足そうに立ち上がり、会議室の照明を消した。明日、このサークルは、科学と心理学、そしてマジックを融合させた、世界を変えるかもしれない実験を行うのだ。

渡辺さん:「(暗闇の中、静かに)物語は、始まる。」

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