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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン16
2086/2254

第39章 『男女平等が妨げる女性の幸福について

課長が「第7章。いよいよ、男女の不愉快な真実かしら…」と、新しいトランプの束を手に取り、少し身構えるように言った。


渡辺さんは、淡々とした口調で話し始めた。「第7章のテーマは、『男女平等が妨げる女性の幸福について』です。この章は、男と女は生まれながらにして違う、という視点から、社会的な成功を収めた高学歴の女性が、自らの意思でキャリアを辞めて家庭に戻っていく『オプトアウト』という現象を論じています」。


小林さんは、新しい手品を練習していたが、「えーっ、せっかく頑張って仕事してるのに、やめちゃうなんて勿体ない!」と、信じられない様子で言った。


高橋さんは、冷静に言った。「でも、キャリアと家庭の両立って、すごく大変だもの。特に子どもができたら、家庭に軸足を置きたいって思うのは自然なことじゃないかしら」。


「著者は、それは女性の脳の構造が、もともと子育てに適しているからだと主張しています」と、渡辺さんは説明した。「たとえば、赤ん坊に笑いかける女性の顔を見ようとする女の子に対し、男の子は動き回るモビールに興味を持つ、という生後間もない赤ちゃんを対象にした研究結果が紹介されています。これは、女性の網膜が人間の顔の認識に適した細胞で占められている一方、男性の網膜は動きの認識に適した細胞で占められている、という男女の目の構造の違いに起因すると考えられています」。


主任が、佐藤くんにマジックを教えながら、「へえ、面白いですね。だから、男の子は車とかロケットの絵を、女の子は人物の絵を描きたがるってことですか?」と尋ねた。


伊藤さんが、静かに続けた。「この本によると、男性の脳は物事を『システム化』する能力に長けており、女性の脳は他人の感情を読み取る『共感』に優れている、とされています。プログラマーに男性が多く、看護師や弁護士に女性が多いのは、この脳の生理的な違いが影響しているからだと考えられます」。


課長は、トランプを高く積み上げながら言った。「なるほどね…。でも、それって結局、男は仕事で女は家庭、っていう昔の考え方に戻っちゃうってこと?」


「著者は、性差別的な教育が性別役割分業を植え付ける、という通説に異を唱えています」と、渡辺さんは言った。「イスラエルの共同体『キブツ』では、男女を区別しない教育を試みましたが、それでも女性は保育や教育の仕事に、男性は農作業や工場建設の仕事に就く傾向が強く見られました。これは、男女の思考の違いが、社会的な環境ではなく、脳の遺伝的な差から生じることを示唆しています」。


小林さんは、少し考え込んでから言った。「でも、母性愛って、やっぱり愛情じゃないですか?生物学的なものって言われちゃうと、なんかちょっと寂しいです…」。


渡辺さんは、淡々と答えた。「この章では、女性が乳幼児の養育を行う際に分泌される『オキシトシン』というホルモンが、満ち足りた幸福感をもたらす『体内ドラッグ』として機能し、子孫繁栄を促すための進化のプログラムである、と説明しています」。


課長は、トランプを手に取り、力強く言った。「分かったわ!この本は、男と女は違うんだから、無理に同じになろうとする必要はない、って言ってるのね!女性が仕事にやりがいを感じることも、家庭に幸福を見出すことも、どっちも正解ってことね!」


高橋さん:「そうね。男性と比べて女性の平均収入は低いけど、女性の方が幸福度が高い、という調査結果も、この章では紹介されているわ」。


主任:「そうですね。僕たちも、男らしさとか女らしさとか気にせず、お互いの個性に合わせて、楽しく手品ができたらいいですね」。


サークルメンバーたちは、この章の重いテーマをそれぞれが消化し、自分たちの役割や関係性を見つめ直していた。渡辺さんは、そんな彼らの様子を静かに見つめながら、再び本に目を落とした。

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