第36章 『進化がもたらす残酷なレイプは防げるか
課長が「よし、第4章いくわよ!次はどんなお話?」と、新しいトランプの束をテーブルに置き、興奮気味に言った。
渡辺さんは、静かに本をめくりながら答えた。「第4章のテーマは、**『進化がもたらす残酷なレイプは防げるか』**です」
その言葉に、部室の空気が一瞬で凍りついた。小林さんは、手に持っていた花のマジックの道具を落としてしまった。「えっ…、レイプ…ですか?なんか、すごく怖いです…」と、震える声で言った。
「うーん、なんか、いつもと雰囲気が違うわね。これは、単なる不愉快な真実、っていう話じゃなさそうね」と、高橋さんが真剣な表情で言った。
伊藤さんが、静かに解説を始めた。「この章は、暴力や犯罪の進化論的な起源について論じています。著者は、男性が女性よりも圧倒的に暴力的であること、そして義理の親による虐待や子殺しが、実の親によるそれよりも多いことを、データで示しています」
主任が、佐藤くんに教えていたマジックを中断し、真剣な顔で言った。「それは…、よく聞く話ですよね。でも、それも進化のせいなんですか?」
「著者は、レイプが人間だけでなく、他の生物界でも広く見られる性戦略だと説明しています」と、渡辺さんは淡々と続けた。「赤ん坊殺しは、現代社会だけでなく、文明から隔絶した狩猟採集民族にも共通して見られます。そして、チンパンジーのオスも子殺しをします。これらはすべて、繁殖度を高めるための進化のプログラムに起因する、と」
小林さんが、泣きそうな顔で言った。「そんな…。私たち人間は、そんなに残酷な生き物なんですか…?」
課長は、いつもの明るさを少し抑え、真剣な表情で言った。「待って、待って。でも、レイプされた女性が感じる心の傷とか、必死に抵抗する気持ちは、どうなの?それも、進化のせいって言うの?」
渡辺さんは、本をテーブルに置き、珍しく課長と目を合わせて答えた。「著者は、レイプされた女性の心理的苦痛や、暴力への抵抗も、進化的な適応であるという衝撃的な仮説を提示しています。自分の子どもを確実に残すために、繁殖の機会を奪われることを防ぐ適応行動だ、と」
「そんな…」と、佐藤くんは言葉を失った。
高橋さんが、静かに言った。「つまり、私たちは、喜びや愛だけでなく、憎しみや暴力といった感情や行動も、すべて進化の産物だ、ということなのね」
「その通りです」と、伊藤さんが頷いた。「著者は、こうした事実を直視することで、私たちはより現実的な犯罪対策を立てられる、と主張しています。例えば、暴力の根本原因がどこにあるのかを理解することで、単なる道徳的な非難に終わらず、より効果的な予防策を考えることができる、と」
課長は、深いため息をついた後、再び笑顔を見せた。「わかったわ。この本は、私たちに目を背けるなって言ってるのね。残酷な現実をしっかり見て、その上で、どうすればいいかを考えろって。手品だって、種を知ってるからこそ、人を笑顔にできるんだもんね!」
主任が、課長の言葉に力強く頷いた。「そうですね!この本は、僕たちに、残酷な真実を理解することで、それを乗り越える知恵を身につけさせてくれるのかもしれません。僕も、より多くの人の心を掴むマジックを学ぶために、もっと深く物事を考えてみようと思いました」
渡辺さんは、彼らのやり取りを静かに見つめ、再び本を手に取った。彼女の表情は変わらないが、部室の空気は、不愉快な真実を正面から受け止め、前に進もうとする決意に満ちていた。