第3章:鋼の神話、未来に浮かぶ
■ 戦艦「大和」艦橋・指揮所——2025年4月1日 午前4時52分
甲板をなめる風が、肌に異様に冷たかった。
それは戦場で嗅ぎ慣れた火薬のにおいではない。もっと清浄で、人工的で、そして異常に明るかった。
有馬艦長は、無言で艦橋の窓から海を見つめていた。
視界の先にあるのは、見たこともない形状の艦艇群。
全身銀灰色に塗られた滑らかな装甲。巨大な艦橋に、林立する円筒形の装置。
側面には、白地に赤の旭日ではなく、白地に青の菱形紋章——海上自衛隊のエンブレム。
「……やはり……我々は、戻ってきたのだな」
その背後で、副砲指揮官の江上大尉が小さくうなずいた。
「……艦長。あれは『まや』型護衛艦です。レーダーはフェーズドアレイ。航空艦も含まれます。……我々が戦った、あのときと同じ……」
「記憶が、あるのだな?」
「はい……はっきりと。
未来の日本の兵たちと、共に戦った沖縄の海。夜の空に飛んでいたのは零戦ではなく、F-35……」
有馬はうなずいた。
「私も、夢のようだと思っていた。だがこの目に、それが再び映っているのなら……それは現実だ」
艦橋後方では、通信兵の中村一飛曹が頭を抱えていた。
「……電文、来ません。短波帯、混信だらけです。いや……これは、通信じゃありません……デジタル信号? 何です、これ……文字じゃない……」
艦内は静まり返っていた。
誰もが口を開けずにいた。
自分たちが一度“時を越えた”ことを知っている者と、そうでない者が混在していることを、全員がうすうす感じ始めていた。