第8章 金融リテラシーが不自由な人たち
渡辺さん:
(いつものように静かに、しかし不思議な熱意を込めて)
…みなさん。では、どうして世の中には、これほどシンプルで合理的な投資法があるのに、多くの人がデイトレードのようなハイリスクなものに手を出してしまうのでしょうか。橘さんは、それは「金融リテラシーが不自由な人たち」がいるからだとおっしゃっていました。
小林さん:
(スマホをいじりながら、少しだけ顔を上げて、不思議そうな表情で)
えー、金融リテラシーってなんですかー?なんか、難しそう…。
高橋さん:
(腕を組み、いかにも人生経験豊富で世間擦れした、懐疑的な口調で)
ようするに、お金の知識がないってことだろ?まあ、そんなの、当たり前じゃないか。
渡辺さん:
はい。そして、この「金融リテラシーが不自由な人たち」は、金融の世界で「カモ」と呼ばれているそうです。カモとは、無知を食い物にされる人たちのことです。
伊藤さん:
(少し斜に構え、クールで知的な口調で)
つまり、金融業界は、彼ら「カモ」をターゲットにした、ぼったくり金融商品を次々と生み出しているってことね。
渡辺さん:
はい。その代表的なものが、手数料の高い投資信託だそうです。神宮寺さんは、こう説明していました。もし、手数料が年率2%の投資信託があったとします。一見するとたいした金額ではないように思えますが、これは金融業界のビジネスモデルそのものなのだそうです。
課長:
(深く頷きながら、まるで手影絵の完成形を見通すように、明確な口調で)
なるほど。手数料が2%ということは、運用成績がいくらであろうと、我々は毎年2%の損をすることになる。これは、まるで手影絵サークルで、作った影の2%を毎回誰かに取られてしまうようなものだな。
主任:
(課長の隣で、ひたすら相槌を打ち、課長の言葉を補足するように)
そうです!それなのに、多くの投資信託のパンフレットには、素晴らしい将来のリターンが書かれているんです!
渡辺さん:
はい。なぜなら、彼らは「金融リテラシーが不自由な人たち」をターゲットに、未来の数字を大きく見せることが商売だからです。投資信託は、運用成績が悪くても手数料は徴収できます。手数料が高ければ、その分儲けが増える。
小林さん:
なんか、嫌な話ですねー。じゃあ、ぼったくりって、そういう商品だけなんですかー?
渡辺さん:
いいえ。神宮寺さんは、生命保険についても、厳しい意見を述べていました。生命保険は、不幸の宝くじだそうです。わずかな掛け金で、大きな商品が支払われる代わりに、ほとんどの人が外れを引く商品。つまり、保険金を支払わなければ、保険会社の利益が増える。
高橋さん:
(腕を組み、いかにも人生経験豊富で世間擦れした、懐疑的な口調で)
そりゃあ、当たり前じゃないか。営利企業なんだから、儲けを出すのは当然だろう?
渡辺さん:
はい。ですが、企業と顧客の利益が相反するようなビジネスモデルは、自由な競争によって淘汰されるはずです。しかし、生命保険業界は、規制に守られているため、顧客を騙してぼったくる商売がいまだに幅を利かせているそうです。
佐藤くん:
(話に加わりたそうで、もじもじしながら、どもりがちに)
…あの、本に書いてあったんだけど、エンダウメント保険って知ってる?生命保険と投資信託を組み合わせた、変な商品なんだって。
渡辺さん:
(佐藤くんの言葉に、嬉しそうに頷く)
はい。橘さんは、それを「お米と高級調理器具をセットで販売するようなもの」だと表現していました。それぞれ単体で買えばいいのに、わざわざセットにして、手数料を上乗せする。
伊藤さん:
(クールに付け加える)
つまり、消費者の無知に付け込んで、不必要なものを買わせようとするビジネスってことね。金融リテラシーを高めることが、そういう「カモ」にならないための唯一の防御策だということだわ。