第5章 株価の正体
(いつものように穏やかな空気が流れる中、渡辺さんがテーブルに広げた紙を見つめている。全員が静かに、渡辺さんの次の言葉を待っている。)
渡辺さん:
(いつものようにどこか不思議な熱意を込めて)
…では、その株の値段は、どうやって決まるのでしょうか。神宮寺さんが、その「究極の答え」を教えてくださいました。
小林さん:
(スマホをいじる手を止め、前のめりになって)
究極の答え!気になります!なんか、呪文みたいなのかしら?それとも、魔法の公式とか?
渡辺さん:
(小林さんの言葉に、小さく微笑むように頷く)
はい。その答えは、こうです。「株式の価値は、その会社が将来にわたって生み出す全ての利益を、現在価値に換算したもの」。
高橋さん:
(眉間に皺を寄せ、理解できないといった様子で)
…何言ってるんだい、さっぱりわからんよ。将来の利益なんて、誰にもわからんだろう。
渡辺さん:
すみません。簡単に言うと、将来のお金は、現在のお金よりも価値が小さい、という考え方なんです。だから、未来の利益を計算するときは、少し価値を下げて考えなければならないんです。この考え方は、債券でも同じだそうです。債券は、将来決まった金額を受け取る約束をするものですが、その価値は金利(割引率)によって変わります。債券投資は金利(割引率)を予想するゲームなんです。
佐藤くん:
(どもりがちに、しかし真剣な表情で)
…株価は、ひと株利益と、その割引率の、たった二つの要素で決まるんだって。
渡辺さん:
はい。そして、この「ひと株利益」を株価で割ったものが「PER(株価収益率)」で、株の割高か割安かを判断する目安になるそうです。
課長:
(深く頷きながら)
なるほど。つまり、私たちは、未来の利益という「見えないもの」を、予想しながら投資をしているということか。まるで、手品の完成形を予想しながら、指を動かしているようだな。
主任:
(課長の言葉を補足するように)
そうです!そして、その予想が当たれば儲かるし、外れれば損をする。でも、その予想は、誰も未来を予知できない以上、完璧にはできないんです!
渡辺さん:
はい。そして、臆病者には、臆病者の投資法があると、本には書かれていました。私はこの言葉が、とても好きです。
高橋さん:
ふふ。なんだか、渡辺さんらしいわね。