第4章 株は紙切れか、所有権か
(いつものように和やかな雰囲気の中、渡辺さんがテーブルに広げた紙を見つめている。皆は、渡辺さんの次の言葉を静かに待っている。)
渡辺さん:
(いつものように静かに、しかし不思議な熱意を込めて)
…みなさん。株って、いったい何だと思いますか?ただの紙切れでしょうか。
小林さん:
(スマホをいじるのをやめ、顔を上げて)
えー、でも、紙切れなのに値段が付いてるんですよね?変なのー。だって、紙って、紙ですよね?
高橋さん:
(腕を組み、いかにも人生経験豊富で世間擦れした、懐疑的な口調で)
ふん。当たり前じゃないか。価値があるから値段が付くんだろう?昔からね、価値のないものに値段は付かないのよ。
渡辺さん:
(高橋さんの言葉にゆっくりと頷きながら、その視線はテーブルの上の紙に注がれている)
はい。ですが、なぜ紙切れに価値があるのか、私はとても不思議に思いました。そこで、調べてみたんです。すると、株は「会社の所有権をばら売りしたもの」だということがわかりました。この所有権には、会社が潰れても出資額以上の弁済をする必要がないという「有限責任」の約束がついているそうです。
伊藤さん:
(少し斜に構え、クールで知的な口調で)
つまり、リスクを限定して、冒険を促すためのシステムってことね。起業家は、大きな冒険、つまりイノベーションに挑戦できる。もし失敗しても、その損は株主が背負ってくれる。
佐藤くん:
(話に加わりたそうで、もじもじしながら、どもりがちに)
…あの、本に書いてあったんだけど、投資家の仕事は、損をすることなんだって。企業が失敗しても、株主がその損を背負うから、誰もが安心して冒険ができるってことだよ。株式会社は、損を薄く広く分散させるためのシステムなんだ。
課長:
(深く頷きながら、まるで手影絵の完成形を見通すように、明確な口調で)
なるほど。そう考えると、まるで皆で一つの大きな船を動かしているようだな。この船で七つの海を股にかける航海士(起業家)は、もし嵐に遭って船が沈んでも、自分一人で借金を背負うことはない。出資者である我々が、その損を分け合うということだ。
主任:
(課長の言葉を補足するように)
そうです!この「有限責任」という仕組みがあるからこそ、私たちは安心して株を買えるんです。損は限られているが、利益は理屈の上では無限大という、とても魅力的な話なんですよ!
渡辺さん:
はい。そして、この船の舵取りは、誰がするのかというと、株主総会の議決権によって決まるそうです。ただ、民主主義の「一人一票」とは違い、株は「ひと株一票」なので、たくさん株を持っている人が一番偉いんですって。
高橋さん:
(眉間に皺を寄せながら)
なんだいそれは。不公平じゃないか!そんなんで、本当に社会はうまく回るのかい?
渡辺さん:
はい。民主主義は、資産にかかわらず人間は平等であるという建前で成り立っています。一方、資本主義は、たくさん株を持っているやつが一番偉いというルールで動いている。これは、どちらが正しいかという話ではなく、それぞれが別の役割を担っているのだそうです。資本主義は、最も効率的にお金を稼いだ者を競うゲームで、ここに別の規則を持ち込むと、話がこんがらがってしまうと。
伊藤さん:
(クールに付け加える)
そうね。例えば、たった一株しか持っていない株主が、ビルゲイツと同じ権利を持つべきだと言い始めたら、会社の経営なんて成り立たないわ。株主総会で多数決が必要なのは、議決権という付加価値に、差をつけるためだとも言えるわね。
渡辺さん:
はい。そして、この「ひと株一票」のルールが、買収ファンドというものに利用されることもあるそうです。彼らは、会社の株を少しずつ買い集めることで、議決権という付加価値を手に入れ、実質的に会社を支配しようとする。それは、市場の歪みを利用して、本来高い価値のある議決権を安く手に入れる方法を知っているからです。
小林さん:
なんか、話がどんどん難しくなってきましたー。でも、なんだか、株の世界って、私たちが知らないところで、色々なことが動いているんですねー。
渡辺さん:
はい。しかし、株の価値はどのように決まるのか、という究極の答えは、とてもシンプルなんです。神宮寺さんが教えてくださいました。