第2章 株式市場という名の舞台
(手品サークル。先ほどの株の話の続きで、誰もが静かに、しかし熱心に耳を傾けている。課長がいつものようにマイペースながらも、核心を突く発言を始める。)
課長:
(少し身を乗り出し、真剣な表情で)
渡辺さん、デイトレードは危険だよ。あれは中毒性があるからね。まるで、手影絵に夢中になるように、一度始めたら抜け出せなくなるんだ。僕はね、一度だけ、流行りに乗って株をやったことがあるんだ。会社の先輩に勧められてね。それがもう、仕事中もチャートが気になって仕方ない。手影絵を作っていても、指の動きがどうもぎこちなくてね。結局、ちょっとだけ儲かったけど、それ以上に精神的な疲労がすごくて、すぐにやめたんだ。
主任:
(課長の隣で、ひたすら相槌を打ち、課長の言葉を補足するように)
そうです!無料のセミナーで「誰でも儲かる」なんて言っているのは、初心者をだまそうとしているんですよ!もし本当に儲かるなら、人に教えるわけがないですから。だって、ライバルが増えて、儲けにくくなってしまいますよね。そういう甘い言葉には、裏があるんです!
伊藤さん:
(少し斜に構え、クールで知的な口調で)
でも、堀江さんの話、ご存知ですか?彼、当時の市場にあった制度の欠陥、株式分割とか空売りの禁止をうまく利用したんですって。ああいうのって、資本主義の原理そのものだと聞きました。
彼は、いわゆる「バグ」を突くのがうまかったんです。市場が完璧に効率的ではないことを知っていた。
渡辺さん:
(伊藤さんの言葉に静かに耳を傾け、ゆっくりと頷く)
はい。本にも、そのことが詳しく書かれていました。堀江さんは、当時あった「株式分割をすると株価が上がる」という市場の歪みを利用して、莫大な富を築いたそうです。例えば、1株を100株に分割すると、株価は理論上100分の1になりますが、実際にはなぜか株価が上昇することが多かったそうです。それを繰り返して、利益を上げた。
高橋さん:
(眉間に皺を寄せ、理解できないといった様子で)
なんだいそれは。まるで詐欺じゃないか!そんな不自然なことで儲けるなんて、許せないね。
渡辺さん:
(高橋さんの感情的な言葉に、冷静に答える)
はい。世間では、堀江さんに対して、そのような見方も多いと思います。しかし、神宮寺さんという方は、こうおっしゃっていました。「堀江氏の行動は、市場の歪みから利益を得るという、資本主義の原理そのものだ」と。彼を否定することは、資本主義を否定することにつながると論じています。
小林さん:
なんか難しいですねー…。でも、株って、結局どうやったら儲けられるんですか?やっぱり、未来を予想するってことですよね?
佐藤くん:
(話に加わりたそうで、もじもじしながら、どもりがちに)
…あの、美人投票って話、知ってますか?経済学者のケインズが提唱した話なんだけど…。新聞に載った美人コンテストで、一番美人だと思う人に投票するんじゃなくて、他人が美人だと思う人に投票するゲームなんだって。
渡辺さん:
(佐藤くんの言葉に、少しだけ瞳を輝かせながら)
はい。本にもその話が載っていました。株式投資も、この美人投票に似ていると。会社の本当の価値や、将来性ではなく、「他の人が、この株は上がるだろうと思っているか」を予想するゲームなのだと説明されていました。
高橋さん:
(怪訝な顔で)
なんだいそれは。自分の考えじゃなくて、他人の考えを予想するのかい?そんなの、当てられるわけないじゃないか!
課長:
(深く頷きながら)
そうだね。まるで、みんなでクイズの答えを予想しているようだな。正解が何かではなく、みんなが何だと思うかを当てる。それがこのゲームのルールなんだ。
伊藤さん:
(少し微笑み、クールに付け加える)
つまり、株価は企業の利益や価値だけではなく、投資家たちの期待や思惑、そして集団心理で動いているということね。だから、感情的になってはいけない。市場は常に歪みを抱えている。その歪みを理解し、冷静に判断することが、このゲームに勝つための鍵だということね。
渡辺さん:
はい。そして、その歪みを利用して、堀江さんは莫大な富を築きました。本では、この株式市場を「プロの棋士が将棋を指す場ではなく、素人がサイコロを振る場に近い」と表現していました。つまり、完全に理詰めで勝てる世界ではなく、偶然性や運の要素も大きく影響するということです。
小林さん:
うーん、なんだか、ますます難しくなってきましたー。でも、ちょっとだけ、株の世界がわかった気がします。