第2章 他艦の混乱
■ 他艦の混乱
護衛艦「むらさめ」では、艦長が苛立ち気味に叫んでいた。
「海自所属でも民間でもないなら、これは主権侵害の可能性がある!
旗流と国籍標識を確認!……違う、旧日本軍の……!?なぜ、そんな……」
「まさか中国の偽装艦か?潜水艦の囮……?」
「演習シナリオの変種じゃないのか?」
一方、潜水艦「そうりゅう」では、ソナー員がうめいた。
「……バブル痕跡あり、スクリュー音は4枚羽根。古い……古すぎる。
でも確実に生きてます。これは、船です。航行してるんです……!」
艦長は呆然としながら呟いた。
「……まさか、こいつが……“現れた”のか……?」
その隣、静かに立っていた斎藤三尉は、ただ一点を凝視していた。
そして、口を開いた。
「艦長。……あれは、戦艦大和です。間違いありません」
「……知っているのか?」
「ええ。4ヶ月前まで、私はあそこにいました。
昭和20年。あの艦橋で、彼らと共に戦っていました」
一瞬、艦内の温度が下がったような錯覚。
斎藤の言葉は、感情ではなく、報告としての硬さと正確さを持っていた。
彼女だけが、この“異常”を異常としてではなく、現実として受け入れていた。
■ 全艦広域通信
「こちらは護衛艦『まや』副長。
すべての艦へ通達。
対象艦は旧日本帝国海軍・戦艦『大和』と構造的に一致。
攻撃の意図なし。進路安定。航行能力あり。
本艦は静観体制を維持する」
その声に、艦内の者たちはさらに混乱した。
だが、それと同時に、同じ記憶を持つ者たちが、黙って立ち上がっていた。
まるで、「時の同胞を迎える」かのように——。