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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン15

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2026/2736

第182章 《再照射で甦る光》




講堂の奥に設置された黒い装置の上に、薄く透き通るプレートが一枚、静かに置かれていた。

それは、先ほどの章で子どもたちが目にした「干渉縞」を焼き付けた感光フィルム——

つまり、“波面を記録した”ホログラムだった。


フクロウが語る。


「君たちは、波を記録することができた。

では今、その“波”を、もう一度、空間に甦らせてみよう。

私たちは今から、“光の存在”そのものを再構成する。」


【1】再照射の準備:参照波をもう一度


南条がレーザーの光を慎重に調整して、ホログラムに対して斜めの角度から当てる。

その瞬間——


ふわり、と空中に“椿の花”が浮かび上がった。


ミナが息をのむ。


「……本物……? いや、ないのに、そこにある……」


「そう、それが“再照射”の力だ。」

フクロウの声が静かに響く。


「ホログラムとは、“記録された波面”だ。

そこに再び同じ参照波を当てれば、干渉縞がその波面を回折させ、元の“物体波”を再構成する。

つまり、光の道筋・揺れ方・進み方そのものが、“記憶通りに”もう一度現れるのだ。」


【2】なぜ「像」が見えるのか?


リョウが呟く。


「……でも、どうして“椿”に見えるの?

ただの光の縞模様だったのに。」


南条が補足する。


「見えているのは、再構成された“波面”から出る光だ。

それは、元の物体から来たのとまったく同じ方向・同じ曲がり方で目に届く。

だから君の目は、“そこに椿がある”と判断する。」


フクロウが続ける。


「つまり、これは光の反射ではない。

光の“元の形”が空間中に再び現れたということだ。」


【3】数学的構造の復習:再生とは“回折”である


スクリーンに、再構成の光学構造が映し出される。

1.記録された干渉縞 =

2.再照射する参照波 =

3.回折により生じる再生波:

→ これは記録時の物体波 と完全一致


「このように、干渉縞は“回折格子”として振る舞う。

そこに適切な波長と角度の参照波を当てれば、記録された波面と同じ波が再生される。

これは、**回折現象の“ブレッグ条件”**に基づいた、空間波面の物理的復元なんだ。」


【4】像の種類:虚像と実像の違い


ケイが、浮かび上がった椿を覗き込みながら聞く。


「先生、これって空中にあるけど、触れないよね?

“実像”じゃないの?」


フクロウがうなずく。


「これは“虚像”だ。

目には空間の奥にあるように見えるが、光はそこには集まっていない。

目の中で収束して“あるように見えている”だけだ。」


一方でフクロウは別の再生装置を点灯させた。


ホログラム板の手前、空中に小さな球体が“光の点”として浮かび上がる。


「これは“実像”だ。

光が空間上の一点に本当に集まっている。

つまり、スクリーンやカメラのセンサーで“撮れる”光なんだ。」


南条が加える。


「ホログラムは、再構成条件を変えれば、“虚像”も“実像”も作り出せる。

これはレンズや鏡ではできないことだ。」


【5】人間の目との接続:なぜ“本物”にしか見えないのか?


フクロウがまとめる。


「人間の目は、

  両眼視差(右目と左目の像のズレ)

 焦点調節(遠近に応じた水晶体の変化)

 頭部の動きに応じた視差

によって、“物体が本当に存在しているか”を判断している。」


「そしてホログラムは、これらすべてに対応している。

だから脳は、“そこに本物がある”としか判断できない。」


ミナが、小さな声で言った。


「でも、それってちょっと……怖いね。

本当じゃないものが、“本当”にしか見えないなんて。」


南条は静かにうなずいた。


「そうだ。

ホログラムは、光学的に“完全な贋作”を作り出せる。

けれど、それは同時に、“存在とは何か”を問い直す手段にもなる。」


【6】記録された光は、「時間を超える」


フクロウが締めくくる。


「ここに記録された“波”は、数十年前の光でも、未来に再照射されればそのまま現れる。

つまりホログラムとは、時間の断面を固定し、それを空間に解き放つ装置なのだ。」


講堂に再び静寂が戻る。


椿の花は、何もない空間にただ静かに浮かび続けていた。

誰もいない過去の庭先の光を、そのまま空間に甦らせながら。


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