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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン15
2024/2200

第180章 《光は波である》



講堂の照明が落ちた。

天井から吊られた細い線状の装置から、わずかに揺れる赤いレーザー光が床を横切っている。空気中の塵が、その直進する線にかすかに浮かんだ。


「君たちは、光を“目に見えるもの”だと思っているね。」


AI教師フクロウが静かに語り始めた。

その声は、教室全体に均等に広がるような柔らかさを帯びていた。


「けれど、それはほんの一部の“現れ”にすぎない。

光の本質は、“電磁波”という、揺れる場の振動だ。」


講壇に現れた映像は、シンプルな白い波。上下に揺れる一本の線が時間とともに進んでいく。


「この波は、何が揺れていると思う?」


ミナが手を挙げた。


「……光の粒、ですか?」


「半分正しい。光には粒としての性質もある。しかし、今日は“波”としての側面を見る。

この波の正体は、“電場”と“磁場”の振動だ。」


フクロウはマクスウェル方程式の簡略図を投影した。

電場(E)が上下に、磁場(B)が左右に、進行方向(z軸)と垂直に交差している。


「光は、“揺れる空間そのもの”なんだ。

真空中でも伝わるのは、“何かが運ばれている”のではなく、場が揺れ、その揺れが伝播しているということ。」


実験:二重スリットと干渉縞


南条が台の上に、小さなスリットを切った金属板とスクリーンを設置した。


「これから、光が本当に“波”であることを体験してもらおう。」


部屋がさらに暗くなり、赤いレーザーがスリットを通ってスクリーンに投影された。


そこに現れたのは――明暗の縞模様。


ケイが声を上げた。


「線が何本も……でもスリットは2つだけじゃ……?」


「これが“干渉”だ。」フクロウが答える。

「2つのスリットから出た光が、ある場所では“山と山”が重なって強まり、別の場所では“山と谷”がぶつかって打ち消しあう。

これこそが、**波の本質である“干渉性”**だ。」


スクリーンに映し出された縞模様に、青い補助線が重なる。

•白:強め合い(明帯)

•黒:打ち消し合い(暗帯)


「粒だったら、こんな縞模様はできない。

光が波である証拠が、ここにある。」


位相と“ズレ”の意味


フクロウが今度は、“波の山と谷”を色分けして表示した。


「ここで重要なのは、“いつ揺れるか”――つまり、“波の位相”だ。

干渉とは、“波のタイミングのズレ”を検出する現象なんだ。」

•同位相:山と山→強め合い

•逆位相:山と谷→打ち消し


「この“ズレ”の情報を、後で使うよ。

ホログラムでは、この“位相の違い”そのものを“記録”するからだ。」


なぜレーザーなのか?


ミナが質問した。


「でも、普通の光じゃダメなんですか? 懐中電灯とか……」


「いい質問だ。」

フクロウは太陽光のスペクトル図を投影した。


「白色光や懐中電灯の光は、いろんな波長が混ざった“非単色光”。

しかも、波がそろっていない=コヒーレンスが低い。

これでは“位相のズレ”を正確に記録できない。」


続けて、赤レーザーのスペクトル線が示された。

•FWHM(半値幅):0.01nm以下

•高い単色性(Monochromaticity)

•波の形が崩れず長距離にわたって維持される


「ホログラムには、極めて狭い波長帯の光(単色性)と、波の揃いコヒーレンスが不可欠。

それを可能にするのが、レーザーなんだ。」


光は空間を描く筆先である


フクロウは、スライドを閉じてこう言った。


「今日見てもらったように、光は“物を照らすもの”ではない。

空間そのものを“形づくる”波なのだ。

そして次章から君たちは、その波を記録し、再生する――“波の記憶装置”に触れることになる。」


南条が言った。


「それがホログラムだ。」


講堂の中央に、赤いレーザーが再び直線を描いた。

だが今、子どもたちはそれを“光の線”ではなく、“空間に刻まれた振動”として見ていた。


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