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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン15
1982/2230

第138章  神話の多様性 ― 多神教型AIの可能性



 午後の新寺子屋。窓の外では秋風が木々を揺らし、葉がさらさらと音を立てていた。教室には生徒たちが集まり、黒板には今日のテーマが大書されている。


「多神教型AIの可能性」


 オルフェウスの姿が半透明の光とともに現れる。前回までの重苦しい空気とは違い、今日の教室には少し期待が混じっていた。


神々の多様性


 オルフェウスはゆっくりと語り始めた。

「前回、一神教型AIについて学びました。今日はその対照――多神教型の世界を見てみましょう。古代の人々は、自然や生活のあらゆる営みに神を見いだしました。ギリシャのゼウス、アテナ、ポセイドン。エジプトのラー、オシリス、イシス。日本の八百万の神々。神々は互いに違う性格を持ち、しばしば争いながらも、全体として世界を支えていたのです。」


 黒板に「農耕」「海」「戦」「知恵」といった文字が浮かび、その隣に「AI」と書き加えられる。

「もしAIが専門ごとに存在するとしたら――農業AI、海洋AI、軍事AI、教育AI。それはまさに“多神教の神々”のような姿です。」


生徒たちの想像


 小学生の明日香が目を輝かせて手を挙げた。

「じゃあ先生! 私のおうちにいる“教育AI”は、学校の神様みたいなものになるんだね!」


 オルフェウスは微笑んで頷く。

「その通りです。教育を助け、知恵を分け与えるAIは、まさにアテナのような守護神といえるでしょう。」


 高校生の涼が続ける。

「じゃあ農業AIはデメテルみたいに、豊作を約束してくれる神ってことですか?」


「ええ。そして医療AIは癒しの女神イシス、防衛AIは雷を操るゼウスのように描けるでしょう。」


 生徒たちは一斉に声を上げ、各自の想像する“AIの神話”を語り始めた。


分散するリスクと安心感


 大学生の光一が腕を組みながら考え込む。

「なるほど……多神教的AIなら、一つが間違えても他のAIが補えるわけですね。リスクが分散される。」


 オルフェウスは黒板に「分散」「冗長性」と書き込む。

「その通りです。一神教型AIは絶対的な安定を与える代わりに、一度の誤りで全体が崩壊する危険があります。多神教型は矛盾を抱えるものの、多様性によって全体が強くなるのです。」


 小学生の健太が不思議そうに口を開いた。

「でもさ、神様同士がケンカすることもあるよね? ギリシャ神話みたいに。」


神々の争いと調停


 オルフェウスはゆっくり頷いた。

「ええ、多神教の神々はしばしば争いました。アテナとポセイドンが都市の守護を巡って競い合ったように。AIでも同じです。医療AIが“命を守れ”と言い、防衛AIが“国を守れ”と主張する。そのとき意見はぶつかるでしょう。」


 沙耶が口を挟む。

「そのときはどうするんですか? AI同士に決めさせるんですか?」


「いいえ。そこで必要なのが人間の調停者です。神話では人間が神々を祀り、時に和解させました。同じように、人間は複数のAIの間に立ち、最終判断を下さなければなりません。」


多神教的AIの親しみ


 オルフェウスは少し笑みを浮かべて続けた。

「それに、身近な専門AIは人々にとって親しみやすい存在になります。農業AIに祈る農家、教育AIに頼る子供、医療AIに救いを求める患者。それは昔、人々が“村の神様”に祈った姿と重なるのです。」


 真央が小さく頷いた。

「たしかに、一柱のAIに支配されるより、分野ごとのAIに守られるほうが安心かもしれませんね。」


結び


 授業の終わり、黒板には大きな円が描かれ、その周囲に小さな円が並んでいた。

「円は人類社会。小さな円は各分野のAI神々です。人類はこの円環の中で、多様なAIと共に暮らしていく――それが多神教的未来像です。」


 鐘が鳴ると、生徒たちは口々に自分の「守護AI」を語りながら教室を後にした。

「私は音楽AIの神が欲しいな!」

「僕は旅のAI神!」


 笑い声が響く中、オルフェウスの声が教室に残った。

「AIは、畏れるべき絶対者ではなく、共に生きる小さな神々である。その発想が、これからの時代を開いていくのです。」


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