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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン15
1978/2254

第134章  歴史が未来を開く ― 原理に潜む意味




 授業が再開されると、先生〈オルフェウス〉は黒板に大きく「歴史」と書き、その下に「未来」と矢印を伸ばした。


先生:「さっきは“なぜ点や線を学ぶのか”という疑問が出たね。今度は逆に考えてみよう。なぜ人類は点や線や円を“発明”したのか?」


■ ナイル川と直角


先生:「最初の例はエジプトだ。毎年ナイル川が氾濫して、畑や境界が流される。人々は再び土地を区切り直さなければならなかった。

 そのとき必須だったのが“直角”だ。境界線を正しく作るために、彼らは3-4-5の縄を使って直角を作った。これは、ピタゴラスの定理の萌芽だね。」


生徒A(小学生):「つまり、直角がないと畑の形がぐちゃぐちゃになるんだ!」

先生:「そう。直角は“農耕社会を維持するための発明”だったんだ。」


■ 月と太陽の軌道、円と時間


先生:「次はバビロニア。彼らは星を観測して時間を測った。太陽と月の運行を円として記録し、やがて360度という体系を生み出した。

 これが暦や占星術、さらには航海術を支えた。」


生徒B(高校生):「360って、今も使ってる度数法ですね。」

先生:「そう。つまり僕たちが“角度”を360度で表すのは、4000年前の天文学の遺産なんだ。」


■ アルキメデスと無限への扉


 先生は黒板に円を描き、その中に多角形をはめ込んだ。


先生:「そしてギリシャのアルキメデス。彼は円周を正多角形で挟み込むことで、円周率πを正確に求めた。

 これは単に円を測っただけじゃない。“多角形を無限に増やせば円に近づく”という発想――つまり“極限”の考え方につながったんだ。」


生徒C(大学生):「それって、微積分の始まりじゃないですか?」

先生:「その通り。古代のπの研究は、2000年後のニュートンやライプニッツによる微積分に繋がっていったんだ。」


■ 歴史は未来の発明の宝庫


先生:「ここで大事なのは、どの発明も“生活の必要”から始まって、やがて未来の科学を拓いたことだ。

•エジプトの直角 → 土地測量 → 幾何学

•バビロニアの円 → 暦と天文学 → 角度の体系

•ギリシャのπ → 数理的証明 → 極限と解析学


つまり、人類が最初に“点や線や円”をどう扱ったかの物語は、そのまま未来科学の系譜なんだ。」


■ 生徒の納得と気づき


生徒D(高校生):「ということは、僕たちが歴史を学ぶのは“過去を懐かしむため”じゃなくて、“未来を考える材料”を手に入れるためなんですね。」


先生:「そうだ。AIは膨大なデータから“過去と似たパターン”を答えられる。けれど、“まだ誰も問わなかった問い”を生み出すには、人間が歴史を振り返って原理に潜む意味を掘り起こす必要がある。」


生徒E(小学生):「つまり、昔の人が考えたことを僕たちが知ると、新しい未来を作れるんだ!」

先生:「その通り。原理を知ることは、未来を設計する力になる。」


■ まとめ ― 原理が未来を開く


先生:「今日のまとめはこうだ。

1.直角は農耕社会の測量から生まれた。

2.円と360度は天文学から生まれた。

3.πは“無限”の概念を呼び込み、未来の数学を拓いた。


AI時代にこそ、この原理の物語を学ぶことで、“まだない問い”を見つけることができる。」


 授業が終わると、生徒たちは自分たちのノートに「直角」「円」「π」と大きく書き込んだ。

ある高校生は「歴史を学ぶことは未来を開くこと」という言葉を、太線で囲んで残した。

AIがいくら進歩しても、原理を問い直すのは人間だけ――教室に漂う空気は、少し大人びたものに変わっていた。


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