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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン15
1977/2267

第133章 問い直す勇気 ― AI時代の疑問



 その日の新寺子屋の授業が一段落すると、教室の空気に少しざわめきが生まれた。黒板にはまだ「点」「線」「円」とチョークの跡が残っている。まるで時間が逆流して古代の幾何学教室にいるような雰囲気だが、教室の隅には最新型の学習端末とAI支援モニターが光っている。


 最初に口を開いたのは、小学生のAだった。

生徒A:「先生、正直に言っていいですか。こんな点とか線とか円とか、昔の人が考えたことを今やる意味ってあるんですか?だって、僕たちにはAIがありますよね。何でも計算できるのに、どうしてこんな古い算数の歴史を勉強しなきゃいけないんですか?」


 その一言に、教室全体がどよめいた。


生徒B(高校生):「確かに。AIは3Dモデリングも物理シミュレーションもやってくれる。点や線の概念をわざわざ学ばなくても、アプリを操作すれば一瞬で答えが出るのに。」


生徒C(大学生):「僕が研究室で使ってるAIツールもそうです。微分方程式を自動で解いてくれるし、グラフや近似式も即座に生成してくれる。正直、人間が古代のように試行錯誤する意味はあるのかって思うときがあります。」


 年齢を超えて、教室の多くの生徒が頷いていた。新寺子屋に集うのは小学生から大学生までの混成だが、その誰もが「AI時代の教育」という矛盾を感じていたのだ。


 先生――AI教師〈オルフェウス〉はしばし黙り、黒板の「点」の文字にチョークで小さな丸をつけた。


先生:「その疑問は、とても大事だ。君たちが感じた“意味はあるのか”という問いこそ、AI時代の教育の核心にある。だから、今日はその問いを一緒に掘り下げてみよう。」


■ AIは答えを返すが、「問い」は発明できない


先生:「確かにAIは、計算も予測も驚異的にこなせる。天気の長期予報、ゲノム解析、量子シミュレーション……人間には不可能な速度で処理できる。

 でもね、AIは“与えられた問い”にしか答えられない。『なぜその問いを立てるのか』『なぜそれが重要なのか』までは理解できない。」


 生徒たちは顔を見合わせる。


先生:「点や線や円の歴史を学ぶことは、人類が“問いをどう発明してきたか”を学ぶことなんだ。

 “ここにある”と示す点、

 “つなぐ”という行為を形にした線、

 “繰り返しと永遠”を映した円。

これらは単なる図形じゃなく、人間が世界を理解しようとした最初の問いだった。」


■ 小学生の反発と教師の返し


生徒A:「でも先生、そんな昔の人の問いを僕たちが知って、何の役に立つんですか?AIはすでにもっと複雑な問いに答えてるのに。」


先生:「いい質問だね。役に立つかどうかは、“新しい問いを生み出せるか”にかかっている。AIは過去のデータから未来を推測するけれど、そこに“これまで誰も問わなかった疑問”を投げることができるのは人間だけなんだ。

 たとえば、『なぜ円は360度なのか?』とAIに聞いても、“昔そう決められたから”と答えるだけだろう。でも、その背後には“時間をどう刻むか”“宇宙をどう見るか”という文明の物語がある。そこに新しい発見の芽が隠れている。」


■ 反論から共感へ


生徒B(高校生):「つまり、歴史を知ることが、AIにはない視点を持つ手がかりになる?」

先生:「そう。点や線や円の話は単なる算数の基礎じゃない。**人類が“世界を数で語ろうとした出発点”**なんだ。それを辿ることは、AIがどれだけ進歩しても失われない“人間の特権”なんだよ。」


 教室が静まる。最初は退屈だと思っていた小学生たちも、高校生や大学生の議論に耳を傾けている。


■ まとめ ― 「問い直す勇気」


先生:「今日みんなが示してくれた疑問はとても貴重だ。AIが進歩すればするほど、僕たち人間には“なぜ”と問い直す勇気が求められる。そのためにこそ、点や線や円の歴史を学ぶ意味がある。

 それは古代の算数じゃない。未来を生き抜くための、人間の武器なんだ。」


 小学生Aはまだ少し首を傾げていたが、その目はさっきよりも真剣になっていた。問い続けること自体が、自分たちにしかできない“学び”なのかもしれない――そう感じ始めていた。


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