第128章 3-4-5の縄 ― 直角の秘密
導入 ― 直角ってなんだ?
朝の授業、寺子屋の円卓の上には長い縄が置かれていた。結び目が等間隔につけられている。
先生(AI教師オルフェウス):「さて、今日は“直角”の話だ。まずみんな、直角とは何か説明できるかな?」
生徒A(小学生):「四角い角!」
生徒B(中学生):「90度の角度のことですね。」
先生:「その通り。だけどね、人類が“90度”なんて言葉を知るよりずっと前から、直角を作る方法はあったんだ。それが“3-4-5の縄”なんだよ。」
3-4-5の原理
(先生は縄を広げ、12個の結び目を見せる。)
先生:「この縄を使って3、4、5の長さを作る。つまり結び目で区切って“3-4-5の三角形”を作れば、必ず直角になる。これはピタゴラスの定理の最も古い応用なんだ。」
生徒C(高校生):「えっ、じゃあ古代の人も“3²+4²=5²”を知ってたんですか?」
先生:「そう、式の形では知らなかったかもしれない。でも経験的に“3-4-5で直角ができる”ことを知っていた。数学はまず、式じゃなくて“道具”として生まれたんだ。」
ナイル川と直角
先生:「古代エジプトではナイル川が毎年氾濫して、畑の境界が消えてしまった。だから測量士が縄を持って畑を測り直す必要があった。そのとき、直角を正確に作れる縄の技術が役立ったんだ。」
生徒D(大学生):「つまり直角は“土地の秩序”を守るために必要だったんですね。」
先生:「その通り。直角は単なる形じゃなく、“社会を支える技術”だった。」
建築と直角
先生:「ピラミッドや神殿を建てるときも同じだ。基盤が直角でなければ建物は歪んでしまう。測量士と建築士は縄を張り、直角を出して大きな石を積み上げた。だからピラミッドの基盤は、現代の測量でもほとんど狂いがないんだよ。」
生徒E(小学生):「すごい!縄と石だけであんなに正確にできたんだ!」
先生:「そうだね。直角を作るというシンプルな技術が、あの巨大な建築を可能にしたんだ。」
直角の象徴性
先生:「さらに直角は“秩序”や“正義”の象徴でもあった。四角い区画は社会の公平さを示し、神殿の直角は宇宙の秩序を反映していた。だから直角は単なる道具ではなく、“文明を支える象徴”だったんだ。」
生徒F(高校生・哲学好き):「なるほど。直角って、自然の曲線とは真逆の“人間の秩序の形”なんですね。」
先生:「その気づきは鋭い。直角は、人間が自然に対抗して生み出した“文明の角”だったんだ。」
授業のまとめ
先生:「今日学んだことを整理しよう。
1.3-4-5の縄で直角を作れる。
2.直角はナイル川の氾濫後の測量やピラミッド建設に不可欠だった。
3.直角は“秩序と文明の象徴”になった。
次回は、この直角からさらに発展した“面積”について学ぶよ。」
放課後の気づき
授業後、生徒たちは校庭に出て、縄跳びを結び、3-4-5の三角形を作った。結び目の縄を張りながら「ここが直角だ!」と叫ぶ声が響く。直角は、彼らにとっても単なる図形ではなく、共同体の秩序をつくる“秘密の道具”として新しい意味を持ちはじめていた。