第109章:時空の狭間、大和の跳躍
デビルフィッシュからの魚雷攻撃を受けながらも、戦艦「大和」は、その巨体を震わせながら、そうりゅうの乗員の救助を続けた。
「艦長!空間に歪みが発生!艦体が、奇妙な振動を始めました!」航海士が、驚愕の声を上げた。
艦橋の窓の外では、漆黒の海面に光の波紋が広がり始め、虹色の光を放ちながら、空間そのものが揺らぎ始めている。艦内では、計器類が不規則に点滅し、電子音が狂ったように鳴り響く。
「これは…!」有馬は、その光景に目を見開いた。そうりゅう艦長が言っていた、時空の歪み。タイムスリップの兆候だ。
「救助班、急げ!全力で引き上げろ!」有馬は、怒鳴るように指示した。
右舷舷側では、救助班員たちが必死の形相で、海面に漂うそうりゅうの乗員たちを救命ネットやロープで引き上げていた。ずぶ濡れになり、疲労困憊した未来の海上自衛隊員たちが、次々と大和の甲板に引き上げられていく。彼らの顔には、安堵と、そしてこの奇妙な現象への困惑が入り混じっていた。
「艦長!第7区画、第8区画の浸水、排水ポンプが限界です!防水扉も完全に閉鎖できていません!」ダメージコントロールチーフの声が、緊迫感を増す。
大和の艦体は、光の波紋に包まれ、その振動は激しさを増していく。それは、時空の狭間に引きずり込まれるかのような、未知の感覚だった。艦橋の床が、まるで地震のように不規則に揺れ、立っていることすら困難になる。
「艦長!艦体が…浮上しています!」航海士が、叫んだ。
巨大な大和の艦体が、まるで何かに引き上げられるかのように、ゆっくりと、しかし確実に海面から浮上し始めた。周囲の海は、光の渦に包まれ、視界は歪み始める。計器類は完全に狂い、羅針盤の針は意味もなく回転する。
最後の一人、そして光の中へ
「艦長!最後の一人です! 救命ネットに捕まりました!」
その瞬間、艦体の振動は、もはや耐え難いレベルに達した。艦橋のガラスがミシミシと音を立て、今にも砕け散りそうだ。光の渦は、大和の巨体を完全に包み込み、周囲の景色は、まばゆい白光の中に溶け込んでいく。
「全員、衝撃に備えろ!」有馬は、最後の力を振り絞って叫んだ。
艦橋の床が、激しく跳ね上がった。まるで、巨大な何かに押し上げられるかのように、大和は光の渦の中心へと吸い込まれていく。五感全てが麻痺し、時間も空間も意味をなさなくなる。それは、永遠とも一瞬とも思える、途方もない感覚だった。
そして、次の瞬間。
光が収束し、激しい振動が止まった。