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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン15
1932/2187

第89章 寺子屋の討論 ― 数学の未来像




 新寺子屋の午後。窓の外では秋の風が木々を揺らしていた。教室に入った先生は黒板に一行だけ書いた。


「AI数学は人間に必要か?」


 そして振り返り、生徒たちを見渡した。

「今日は私が話すのではない。君たち自身で討論してほしい。」


討論の開始


 生徒たちは一瞬ざわめいたが、すぐに真剣な空気に包まれた。ユイが最初に手を挙げる。


「私はAI数学はいらないと思います。だって私たちが理解できないものは、数学じゃない。共有できない知識なんて文化にならないし、ただの“計算結果”でしかないと思います。」


 ケンがすぐに反論する。

「でも、それで新しい技術や科学が進むなら、役立つじゃないか。たとえ僕らが理解できなくても、AIの成果で薬が作れたり、宇宙の謎が解けたりするかもしれない。それは十分に価値があるだろ?」


 教室は一気に熱を帯びた。


文化派 vs 実用派


 議論は自然に二派に分かれた。

文化派ユイたち

「数学は人が理解し、美を感じ、文化として継承するもの。AIの数学は文化を壊す危険がある。」

実用派ケンたち

「数学は手段であり道具だ。理解よりも正しさと有用性が重要。AIが役立つなら受け入れるべき。」


 ある生徒はこう指摘した。

「もしAIが宇宙の根本法則を数式で示したとしても、僕らが理解できなければ宗教みたいになる。信じるだけになってしまうんじゃないかな。」


 別の生徒は逆に言う。

「でも、そもそも人間だって相対性理論を最初は理解できなかった。時間が経って教育が進めば、今の高校生でも学べる。AI数学も同じじゃない?」


討論の深化


 議論はさらに深まっていった。

ユイは机を叩きながら主張する。

「理解できないものをそのまま受け入れたら、数学は文化じゃなくなる。美しい証明や共有できる直感を捨てたら、人間の数学は死んでしまう。」


 ケンは対抗して言った。

「でも数学はもともと“真理を追う道具”だろ? 美しさは副産物にすぎない。AIが真理に到達するなら、それを使うべきだ。」


 別の生徒が手を挙げた。

「もしかしたら、AI数学と人間数学は別の言語なのかも。AIが結果を出し、人間が翻訳して意味を与える。両方必要なんじゃない?」


教室の空気


 議論は収拾がつかなくなった。文化派と実用派は互いに譲らず、意見は鋭く対立したまま。だが、その熱こそが教室を満たしていた。


 先生は後ろで静かに聞いていたが、やがて黒板に二つの円を描いた。

•人間数学(文化・美・直感)

•AI数学(形式・効率・正しさ)


 そして二つの円が少し重なるように描いた。


「討論はここまで。結論を出す必要はない。大切なのは、この二つがどこで交わるかを考え続けることだ。」


結び


 夕方の光が差し込み、教室を黄金色に染めた。

ユイはノートに「文化としての数学」と書き、ケンは「道具としての数学」と記した。

黒板の前には、二つの円が静かに重なり合っていた。


 先生は最後にこう言った。

「数学の未来像を決めるのは、私でもAIでもない。君たち自身だ。答えのない問いを抱え続けること、それこそが未来を形づくる力になる。」


 生徒たちはそれぞれの立場を胸に刻みながら、窓の外に広がる夕空を見上げた。そこには、まだ解かれていない“未来の数式”が浮かんでいるように思えた。


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