第107章 闇からの追撃、巨艦の耐久
そうりゅうが沈没した海域に近づくにつれて、大和のソナーは、水中で漂う複数の生存者らしき音紋を捉え始めた。しかし、同時に、もう一つの、より冷徹な音紋を捉えた。
「艦長!魚雷音! 複数目標!方位310、距離2000ヤード(約1800メートル)!急速接近!」聴音員が、悲鳴に近い声で叫んだ。
デビルフィッシュだ。そうりゅうを攻撃した米潜水艦が、今度は大和を狙ってきたのだ。
「面舵微速!回避運動!」有馬は指示したが、27ノットで航行中の大和が、潜水艦の魚雷を回避することは至難の業だ。しかし、彼は、回避よりも優先すべきことがあると判断した。
「救助優先! 各員、救助準備!舷側にネットを下ろせ!負傷者を優先して引き上げろ!」有馬は、怒鳴るように指示した。
その時だった。
ゴォォォォン!!
艦体が、巨大な鉄槌で打ち砕かれたかのような衝撃に襲われた。激しい揺れが艦橋を襲い、士官たちが体勢を崩す。照明が瞬き、艦内には鈍い爆発音が響き渡った。
「被弾!右舷艦尾部! 浸水報告なし!しかし、衝撃で船体が大きく揺れました!」ダメージコントロールチーフが、驚愕の声を上げた。
Mk-14魚雷の一撃。しかし、大和の強固な水線下防御と多層隔壁は、その直撃を耐え抜いた。浸水こそなかったが、その衝撃は、艦内にいる全員に恐怖を植え付けた。
「くそっ…!」有馬は、唇を噛み締めた。しかし、彼は救助を止めなかった。
「救助を続けろ!急げ!」
その直後、再び、聴音員の悲鳴が響いた。「艦長!もう一発、魚雷接近! 方位300!距離1000ヤード!」
ドォォォン!!
再び、艦体を揺るがす強烈な衝撃。今度は、先ほどよりも深い、重い音が艦底から響き渡った。
「被弾!右舷中央部! 第七区画、第八区画に浸水発生! 排水ポンプ、最大稼働!防水扉、閉鎖急げ!」ダメージコントロールチーフの声が、緊迫感を増した。
艦内には、けたたましい浸水警報が鳴り響き、乗員たちが防水扉の閉鎖に奔走する。大和の強靭な防御も、二発の魚雷直撃には耐えきれず、ついに浸水が始まったのだ。