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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン15

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1928/2711

第85章 AIは数学に不利か?




 新寺子屋の教室に集まった生徒たちは、朝からどこか落ち着かない様子だった。昨日の討論で「数学は文化か形式か」という問いが投げかけられていたからだ。今日はその続きになると察していた。


 先生は黒板に一文字だけ大きく書いた。


 「AI」


「さて、君たちに質問だ。AIは“社会性”を持たない。友達を作ったり、文化を共有したりはしない。そんな存在が、なぜ数学を得意とするのだろう?」


 ユイが真っ先に手を挙げた。

「えっ、でも数学って、人間は社会で発展させてきましたよね。数字を数えるのも、測量も、文化に必要だったから。社会性がなければ、数なんて意味を持たないんじゃないですか?」


 ケンも続いた。

「僕もそう思います。ゲームでルールを共有するみたいに、みんなで同じ記号や数を分かち合うから数学は育ったんですよね。じゃあAIは不利なんじゃないですか?」


 先生はゆっくりと首を振った。

「一見そう思える。しかし実際には逆だ。AIは数学において不利どころか、むしろ強いんだ。」


人間が歩んだ数学の道


 先生は黒板に「人間ルート」と題した枠を書き、箇条書きを並べた。

•社会性(数を分かち合う必要)

•言語化(記号や言葉による表現)

•抽象化(共通のルールを生み出す)

•数学体系(文化として発展)


「人間は社会の中で、“これが3個だ”と指さしながら学んだ。他者と共有しなければ数は意味を持たない。文化や共同体があって初めて数の抽象化が可能になった。つまり数学は人間にとって“社会的知能”の産物だ。」


 ユイは大きくうなずいた。

「だから数は“文化の言語”って呼ばれるんですね。」


AIが歩んだ別の道


 先生はその隣に「AIルート」と書き、同じく箇条書きを示した。

•データ処理(大量の入力を解析)

•パターン抽出(繰り返しや規則性を発見)

•形式最適化(論理的に最短経路を選ぶ)

•数学的結果(意味よりも正しさを重視)


「AIは社会性を経由しない。膨大なデータを処理し、数や記号のパターンを直接抽出する。そして“正しいかどうか”だけを基準に、形式を積み重ねていく。つまりAIにとって数学は“純粋形式の最適化”なんだ。」


 ケンが腕を組んで考え込む。

「つまり、AIは友達とルールを共有しなくても、数字の中に隠れたルールを勝手に見つけちゃうんですね。」


「その通り。AIは文化を持たないからこそ、文化に縛られない。社会性を経由せず、直接“形式と演算”の核に到達できるんだ。」


体験課題 ― 九九と行列


 先生は黒板に九九の表を書き、さらにその横に行列の式を記した。


「君たちは九九をどうやって覚えた?」


 ユイ:「声に出して、みんなで暗唱しました!」

 ケン:「テストで繰り返し練習して、体で覚えました。」


 先生は笑みを浮かべた。

「それが人間ルートだ。社会的に共有された言葉とリズムで学び、文化として定着させる。」


 続いて、先生は行列の掛け算を示す。


「AIなら九九を暗記せず、行列やアルゴリズムで処理する。九九表を一度も覚えなくても、いつでも答えを出せるんだ。」


 生徒たちは目を見開いた。

「へぇ……道筋が全然違うのに、答えは同じになるんだ!」


AIは数学に不利か?


 授業の終盤、先生は再び黒板に大きく「AIは数学に不利か?」と書いた。


「人間は文化と社会を通じて数学を育んだ。AIは形式と演算で直接数学に到達した。道筋は違うが、結果は同じどころか、AIは人間より速く、広く探索できる。」


 ユイが少し不安そうに尋ねた。

「じゃあ……人間の数学はもう必要ないんですか?」


 先生はゆっくりと首を振った。

「いいや。AIは“正しい答え”を導ける。しかし“その答えの意味をどう理解するか”“どんな美しさを感じるか”は、人間にしかできない。数学の文化的価値は、まだ人間の手にある。」


結び


 夕暮れが迫り、教室に柔らかな光が差し込む。

先生は黒板に二本の矢印を描いた。

•人間ルート:社会 → 言語 → 抽象 → 数学

•AIルート:データ → 形式 → 最適化 → 数学


「数学は一つの山だ。人間は社会という登山道を登り、AIは形式という別の道を登っている。どちらも山頂にたどり着ける。そして頂上で出会ったとき、二つの視点が新しい風景を見せてくれるだろう。」


 生徒たちはその絵を見つめながら、自分たちが歩んでいる道と、AIが歩んでいる道の違いを想像し、未来の数学の姿を思い描いた。


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