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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン15
1924/2254

第82章 社会性が数を育てる




 新寺子屋の朝。先生は黒板に大きな三角形を描き、その頂点に「仲間」、二つの底辺に「敵」「獲物」と書き込んだ。


「さて今日は、“社会性と数”の関係を考える。これまでアリ、ミツバチ、カラス、イルカ、ゾウと見てきたが、共通していたものがある。それは“群れの中で数を必要とする”ということだ。」


 ユイが手を挙げた。

「先生、数って生き延びるために必要だったんですか?」


「その通り!」先生は黒板に「数=生存戦略」と大書した。

「例えば、敵の群れが5匹、味方が3匹しかいなければ、戦うより逃げたほうがいい。これは“数的優位”の判断だ。社会性のある動物ほど、この判断を迫られる。」


チンパンジーの実験


 先生はスクリーンに一枚の写真を映した。森の中で、数頭のチンパンジーが木の実を奪い合っている。


「研究では、チンパンジーは敵の群れの声を録音して聞かせると、声の数に応じて行動を変える。敵が少なければ攻撃に出るし、多ければ撤退する。つまり“数で勝算を測る”んだ。」


 ケンが感心したように言った。

「人間の戦争と同じだ……」


「そう、数の優位を測るのは戦の基本だ。だがチンパンジーにとってはもっと日常的。木の実を分けるときも、仲間同士の食べ物の数を意識する。社会性が高いからこそ、数が自然に必要になったんだ。」


教室での模擬体験


 先生は生徒を六人呼び出し、三人ずつに分けた。

「ここに二つの“群れ”がある。Aは3人、Bは6人。さあ、どちらが勝ちそうかな?」


 生徒たちは一目で「B!」と答える。


「そうだ。だがもしAに“石”という武器を持たせたらどうだ?」


 教室がざわつく。「それならAも勝てるかも!」


「この判断が“数+条件”の思考だ。単純な数の大小から、戦略的な数の解釈へと広がる。社会性はこうした判断を磨く。」


ライオンの例


 先生はさらに話を続けた。

「ライオンも同じだ。群れで狩りをするとき、獲物の数や大きさを見極める。例えばヌーが10頭なら、2頭だけの雌ライオンでは無謀だが、6頭の群れなら勝算がある。」


 ユイが目を輝かせた。

「じゃあ、ライオンも計算してるんですね!」


「計算というより“数的直感”だな。だがそれが狩りや生存を左右するんだ。」


数と社会性のまとめ


 先生は黒板に次の表を書いた。

•個体で生きる動物タコなど:高度な知能はあっても数の抽象化は弱い。

•群れで生きる動物(チンパンジー、イルカ、ゾウ):仲間数・敵数の把握が必須 → 数概念が発達。

•人間:群れ+言語+文化 → 数を抽象化し、数学へ。


 ケンがゆっくりとつぶやいた。

「社会がなかったら、人間も数学にたどり着かなかったのかもしれない……」


 先生は満足そうに頷いた。

「その通り。数は孤独の中では育たない。群れや社会があるからこそ“誰がいるか”“いくつあるか”が重要になり、数が磨かれていったんだ。」


結び


 授業の終わり、先生は生徒たちに問いかけた。

「君たちは今、ここで仲間と共に学んでいる。もし一人で学ぶだけなら、数はただの記号かもしれない。でも仲間と分け合い、比べ合い、競い合うからこそ、数は意味を持つんだ。数学は、社会の縮図なんだよ。」


 窓の外ではスズメたちが群れで飛び立ち、その数を数えるように子どもたちは目で追っていた。


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