第79章 カラスとオウムの知能
秋風が木々を揺らす午後、新寺子屋の教室に先生は黒い羽根と色鮮やかな羽根を並べた。
「さて、今日は“鳥の数知能”についてだ。カラスとオウム、この二種類の鳥は、人間に次ぐ知能を持つと言われている。なぜだと思う?」
ケンが答える。
「カラスは道具を使うし、オウムは人の言葉を真似できます!」
「その通り。だが今日注目するのは“数”だ。カラスとオウムは、数を扱う能力を持っているんだ。」
先生は黒板に「カラス=順序と推論」「オウム=模倣と記号」と書いた。
「まずはカラスだ。カラスは数を見分けるだけでなく、“順序”を理解する。例えば、3つの箱のうち、必ず“2番目”に餌があると学習させると、カラスは2番目を正しく選べる。さらに、5番目、6番目も区別できる。」
ユイが驚いて声を上げた。
「6番目まで分かるんですか!」
「そうだ。そしてカラスは仲間の数も数える。敵の群れが何羽かを見極め、自分たちの群れと比較して、戦うか逃げるかを決める。これは“社会的数概念”だ。」
一方で先生は、机の上に鮮やかな羽根を置いた。
「オウムは少し違う。彼らは声の模倣能力が非常に高い。だから、人間の“数詞”を学び、実際に数を言葉で言える。」
生徒たちはざわつく。「しゃべる鳥が数を数えるんだ!」
「その通り。アレックスというヨウムは有名だ。彼は“1から6”を英語で数えられ、色や形と数を組み合わせて答えられた。例えば“赤いブロックがいくつあるか”という質問にも正しく答えたんだ。」
ケンが感心してつぶやいた。
「まるで人間の子どもみたいですね……」
先生は黒板に次のようにまとめた。
•カラス:順序理解、社会的数感覚、因果推論。
•オウム:数詞を模倣し、抽象的にラベル化できる。
「両者はアプローチが違う。カラスは“論理的推論”に強く、オウムは“言語的ラベル化”に強い。つまり、数を扱う道筋が異なるんだ。」
ここで先生は生徒たちに実演を提案した。
「君たちを“カラス班”と“オウム班”に分けよう。カラス班は順序を守る課題、オウム班は数を言葉で表す課題をやる。」
カラス班の生徒にはカードが配られ、「必ず3枚目を選べ」と指示された。彼らは何度か練習するうちに“順序”を覚えていく。
一方、オウム班の生徒は「丸が3つ」「四角が2つ」と言葉にして答える練習をする。
やがて教室は熱気に包まれた。ユイが叫ぶ。
「わたしたち、ちゃんと“オウム”になってきた気分です!」
先生は笑いながら板書を加えた。
「ここから分かるのは、数知能には“二つの道”があることだ。
1.論理的な順序推論(カラス型)
2.言語的なラベル化(オウム型)
どちらも“数概念”の基礎になるが、人間はその両方を融合した。だからこそ“抽象数学”にたどり着いたんだ。」
授業の締めくくりに先生は静かに言った。
「数を扱う能力は、社会性や文化と結びつくと急速に進化する。カラスは群れの数を、オウムは言葉を――そして人間は文化を。数は進化の分岐点そのものなんだ。」
窓の外ではカラスの鳴き声が響き、どこかでオウムの甲高い声を想像させるように風が通り抜けた。子どもたちは羽根を手に取り、それぞれの“数の道”を胸に刻んだ。