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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン15
1921/2364

第79章 カラスとオウムの知能



 秋風が木々を揺らす午後、新寺子屋の教室に先生は黒い羽根と色鮮やかな羽根を並べた。


「さて、今日は“鳥の数知能”についてだ。カラスとオウム、この二種類の鳥は、人間に次ぐ知能を持つと言われている。なぜだと思う?」


 ケンが答える。

「カラスは道具を使うし、オウムは人の言葉を真似できます!」


「その通り。だが今日注目するのは“数”だ。カラスとオウムは、数を扱う能力を持っているんだ。」


 先生は黒板に「カラス=順序と推論」「オウム=模倣と記号」と書いた。


「まずはカラスだ。カラスは数を見分けるだけでなく、“順序”を理解する。例えば、3つの箱のうち、必ず“2番目”に餌があると学習させると、カラスは2番目を正しく選べる。さらに、5番目、6番目も区別できる。」


 ユイが驚いて声を上げた。

「6番目まで分かるんですか!」


「そうだ。そしてカラスは仲間の数も数える。敵の群れが何羽かを見極め、自分たちの群れと比較して、戦うか逃げるかを決める。これは“社会的数概念”だ。」


 一方で先生は、机の上に鮮やかな羽根を置いた。

「オウムは少し違う。彼らは声の模倣能力が非常に高い。だから、人間の“数詞”を学び、実際に数を言葉で言える。」


 生徒たちはざわつく。「しゃべる鳥が数を数えるんだ!」


「その通り。アレックスというヨウムは有名だ。彼は“1から6”を英語で数えられ、色や形と数を組み合わせて答えられた。例えば“赤いブロックがいくつあるか”という質問にも正しく答えたんだ。」


 ケンが感心してつぶやいた。

「まるで人間の子どもみたいですね……」


 先生は黒板に次のようにまとめた。

•カラス:順序理解、社会的数感覚、因果推論。

•オウム:数詞を模倣し、抽象的にラベル化できる。


「両者はアプローチが違う。カラスは“論理的推論”に強く、オウムは“言語的ラベル化”に強い。つまり、数を扱う道筋が異なるんだ。」


 ここで先生は生徒たちに実演を提案した。

「君たちを“カラス班”と“オウム班”に分けよう。カラス班は順序を守る課題、オウム班は数を言葉で表す課題をやる。」


 カラス班の生徒にはカードが配られ、「必ず3枚目を選べ」と指示された。彼らは何度か練習するうちに“順序”を覚えていく。

 一方、オウム班の生徒は「丸が3つ」「四角が2つ」と言葉にして答える練習をする。


 やがて教室は熱気に包まれた。ユイが叫ぶ。

「わたしたち、ちゃんと“オウム”になってきた気分です!」


 先生は笑いながら板書を加えた。

「ここから分かるのは、数知能には“二つの道”があることだ。

1.論理的な順序推論(カラス型)

2.言語的なラベル化(オウム型)


どちらも“数概念”の基礎になるが、人間はその両方を融合した。だからこそ“抽象数学”にたどり着いたんだ。」


 授業の締めくくりに先生は静かに言った。

「数を扱う能力は、社会性や文化と結びつくと急速に進化する。カラスは群れの数を、オウムは言葉を――そして人間は文化を。数は進化の分岐点そのものなんだ。」


 窓の外ではカラスの鳴き声が響き、どこかでオウムの甲高い声を想像させるように風が通り抜けた。子どもたちは羽根を手に取り、それぞれの“数の道”を胸に刻んだ。


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