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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン15
1918/2187

第76章 乗法と除法の工夫




 新寺子屋の朝。先生は、籠に入った木の枝を数十本、教室の中央にどさりと置いた。子どもたちが目を丸くする。


「さあ、今日は“掛け算”と“割り算”の誕生について考えてみよう。加えることと減らすことはもう分かったな。じゃあ、羊を10頭ずつの群れにまとめて数えるとき、どうする?」


 前列のケンが手を挙げた。

「10を1回、2回、3回って数えれば……30!」


「その通り!」先生は黒板に大きく書いた。

10 + 10 + 10 = 30


「これが“繰り返し加算”だ。たくさんの物を効率よく数えるには、同じ数を繰り返してまとめる必要がある。これを“掛け算”と呼ぶようになった。」


 先生はさらに板書する。

10 × 3 = 30


「古代エジプトでは、この“掛け算”を工夫して表したんだ。例えば、ある農夫が羊を23頭、友人に贈るとする。だが、彼は“23 × 15”という計算を知らない。そこでエジプトの人々は“倍加法”を使った。」


 先生は黒板に表を描いた。


1 → 23

2 → 46

4 → 92

8 → 184


「15は“8+4+2+1”に分解できる。だから、この行を足し合わせればいい。」


 生徒たちはざわめく。「92+46+23……161! 184+161=345!」


「正解。これが“エジプト式掛け算”だ。九九がなくても計算できる。要は“繰り返し加算”を効率化する工夫なんだな。」


 教室に感嘆の声が広がる。


 今度は先生が木の枝を12本取り出し、机に並べた。

「さて、これを3人で公平に分けたいとする。どうすればいい?」


「一人に1本ずつ順番に配っていく!」とユイが元気よく答える。


「そう、それが“割り算”だ。12本を3人に分けると、1人4本になる。黒板に書くと……」


12 ÷ 3 = 4


「割り算は“公平な分配”から生まれた。農作物を家族で分ける、戦利品を仲間で分ける、課税を均等に割り振る――人間社会にとって必要不可欠だった。」


 先生はさらに問いかけた。

「では、もし13本を3人で分けるなら?」


 子どもたちは顔を見合わせる。「……余りが1本残る!」


「その通り! これが“余り”の概念だ。古代の人々は余りをどう扱うかで工夫をこらした。食料なら余った分は長に渡す。土地なら測量して少しずつ配分する。ここから“分数”が生まれたんだ。」


 先生は黒板に「13 ÷ 3 = 4 余り1」と書き、その下に「= 4 + 1/3」と補足する。


 最後に先生は全員に問いかける。

「いいかい。掛け算と割り算は、ただの便利な計算ではない。繰り返し加えること、分け与えること――人間の社会生活の中で自然に必要になったものだ。だから“乗法と除法”は、加法と減法から派生した、より高度な生活の知恵だったんだ。」


 生徒たちは、枝を手にとって「4本ずつに分ける」遊びを繰り返した。配分がうまくいかず余りが出ると、皆で笑い合う。その笑い声に、先生は満足そうに頷いた。


「掛け算と割り算を理解することは、社会を理解することなんだ。次は、文明ごとにどんな工夫をしたかを見ていこう。」


 そう言って先生は黒板に「メソポタミア → エジプト → 中国 → インド」と矢印を書き、大きな円を描いた。新寺子屋の一日は、こうして次の歴史の旅へと進んでいった。


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