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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン15
1914/2290

第72章 最終合意 ― G7/世銀パッケージの確定



 会議の舞台は横浜臨時国際会議場。かつて港町の展示ホールだった巨大空間は、いまや戦時外交の中心となっていた。天井には仮設の防爆パネルが張られ、壁面には厳重な電磁シールド。数十台の通訳ブースと暗号化回線が稼働し、G7首脳、世界銀行総裁、供与国議会の代表、そして日本の臨時政府首脳が一堂に会した。


合意文書の骨子


 壇上のスクリーンに投影されたのは「G7/世界銀行支援パッケージ最終案」。

 - 総額:1,200億ドル相当

 - 構成:①成果連動型融資(世銀)、②設備保証(ECA)、③市場調達支援(G7債務保証)

 - 監査:四半期ごとの現地査察、KPI遵守監視、終端利用検証(EUA)


 外務次官が読み上げる。「地下要塞建設資金は用途ごとに四つのエスクロー口座に振り分けられる。掘削、換気・排水、医療・衛生、指揮統制。この四分野で監査が行われ、未達成の場合は資金支払を一時停止」


 会場の片隅で矢代隆一中佐は唇を結んだ。要塞はまだ掘削の初期段階だ。だが、この署名がなければ鋼材もポンプも届かない。


G7の立場


 米国代表は、やや高圧的な口調で語った。

 「透明性が担保されなければ追加資金は出せない。特に軍事用途と民生用途を明確に分離すること。我々の議会が求めている条件だ」


 英国首相が続ける。「監査団には常駐権限を与えるべきだ。終端利用検査のために、実際に発射管区や医療施設を訪れる必要がある」


 フランス代表は渋い表情で付け加えた。「ただし監査権限が広がりすぎれば、日本の主権を侵すと批判されるだろう。その点で折り合いをつけるべきだ」


世界銀行の立場


 世銀総裁は冷静な声で言う。

 「我々は投資の安全性を確保する必要があります。条件付融資は厳格ですが、それがなければ国際資本は動きません。日本側が負担すべきは透明な情報公開と第三者監査受け入れ。それが守られれば、資金は流れ続けるでしょう」


 日本の財務局長はうなずいた。「既に四つのエスクロー口座を設置しました。用途別に資金を管理し、報告は四半期ごとにダッシュボードで公開します」


緊張の場面


 だが簡単にまとまるはずもなかった。米国議会代表が声を荒げる。

 「我々は血税を投じる。にもかかわらず、不正が発覚したらどうする? 返済能力がなくなれば、我々の議会は支援を拒否するだろう」


 対する日本側の臨時首相は冷静に答えた。

 「この計画は国家の存亡に関わる。我々は返済よりも先に、国民を生かさねばならない。もし資金が止まれば、数百万の命が危険に晒される」


 場内の空気が張り詰めた。


転機 ― 妥協案


 サラ・ミラーが資料を差し出す。「二重監査方式を導入します。G7監査団と日本の独立監査機関が同時に現地を確認し、双方の署名が揃った時だけ報告が有効となる。こうすれば透明性と主権の両立が可能です」


 世界銀行総裁は少し考え、頷いた。「現実的だ」

 米国代表も「二重署名なら議会を説得できる」と言葉を和らげた。


署名の瞬間


 夕刻、壇上に最終合意文書が置かれた。各国首脳、世銀総裁、日本の臨時政府首脳が順に署名する。ペン先の音がやけに大きく響く。


 「これで着工は正式に承認された」

 外務次官が低くつぶやく。会場の隅で工兵隊の若い士官が目頭を押さえていた。彼らの努力が、ようやく国家の合意に結びついたのだ。


だが影は残る


 合意の場を出ると、矢代は夜風に顔を向けた。背後では記者団がフラッシュを焚き、各国代表が会場を後にしていく。


 「資金は確保できた。だが政治と軍事のリスクは消えない」

 矢代はそう呟いた。地下要塞はまだ図面の上にしか存在しない。資金の流れも監査の枠組みも、敵の攻撃ひとつで崩れる可能性がある。


 それでも――この一枚の署名が、地下に新しい都市を生み出す扉を開いたことは疑いなかった。


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