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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン15
1913/2276

第71章 国際金融と支援条件 ― 資金の枷




 大阪の臨時政府庁舎。雨に濡れた窓の外を見下ろしながら、財務局長は深い息を吐いた。机の上には、各国や国際金融機関から送られてきた厚い書類が山積みになっている。数字と条文で埋め尽くされたその束こそ、東京地下要塞を動かす「血流」――資金の行方を決める鍵だった。


三つの資金ルート


 外務次官が資料を整理して説明した。

 「資金調達には三つの柱があります。まずは国際金融機関(MDB)からの低利融資。次に欧米の輸出信用機関(ECA)を通じた設備調達の保証。そして最後は市場、つまり国債や債券の発行です」


 矢代隆一中佐は腕を組んだまま、難しい顔をして聞いていた。工兵出身の彼にとっては、金融の仕組みはまるで異国の言葉だ。しかし「金がなければ鋼材もポンプも動かない」という一点だけは理解できる。


MDBの条件


 最初に口を開いたのはMDB代表だった。

 「我々は成果連動型の融資を提案します。三か月ごとに評価を行い、計画の進み具合や労働安全、環境基準の達成度に応じて分割で資金を支払います」


 財務局長は苦い顔をする。

 「つまり、指標が一つでも未達なら資金が止まるわけですか」

 「ええ。ただし、部分的に達成した分だけ支払う方式に調整は可能です」


 矢代が低く呟いた。「現場の埃や粉塵の濃度まで数字に換算されるのか……」


ECAと設備輸入


 次に欧州側のECA代表が書類を出した。

 「我々はトンネル掘削機や換気装置に保証を付けます。ただし条件があります。日本側が資金の一部を先に出すこと、資材の出所をすべて証明すること、そして不正があれば保証を打ち切ること」


 復興庁長官が即座に反発する。

 「現場では日ごとに掘削が進んでいる。支払が止まれば、その瞬間に工事が止まる」


 横で控えていたサラ・ミラーが口を挟む。

 「エスクロー口座を使いましょう。掘削や換気などの用途ごとに口座を分けておけば、一部の問題で全体が止まることは避けられます」


市場からの資金調達


 最後に残されたのは市場調達、つまり国債だ。書類には「戦時復興ソブリン債」の文字。

 「利回りは通常より高いが、保証を付ければ引き受け手は現れる。 diaspora(在外邦人)向けに小口の債券を出す案や、災害が起きた時に支払が増える“カタストロフィ・ボンド”も検討されています」


 財務局長は首を振った。「利払いは重い。だが背に腹は代えられん」


条件の網


 資金調達の裏には、細かい条件が網のように張り巡らされていた。

 - 労働災害の発生率が基準を超えれば資金凍結。

 - 粉塵や汚染水の処理が基準未達なら即見直し。

 - 入札の透明性が欠ければ融資打ち切り。


 監査団は冷徹だった。「慈善ではない。我々は資金を供給する代わりに、ルール遵守を求める」


危機


 会議の途中、国際監査チームから速報が入った。

 「労働安全データの一部に記録遅延。基準未達の恐れあり」


 ざわめきが走る。三か月分の資金が止まれば、鋼材の前払い、発電機の整備、燃料の調達――すべてが止まる。


 沈黙を破ったのはサラだった。

 「暫定払出の仕組みを導入しましょう。45日だけ資金を繋ぎ、その間に第三者が即時レビューを行う。問題がなければ本決済、不正があれば全額返還。監査側も譲歩できます」


 MDB代表は腕を組み、短く頷いた。「暫定だ。45日限度だ」


政治の線引き


 だが最後に、ECAが新たな条件を突きつけた。

 「もし成果連動融資が二期連続で停止すれば、我々の保証も自動的に縮小します。ただし医療や食料に使う資金は例外としましょう」


 外務次官が食い下がる。「軍事と民生をどう切り分けるつもりだ」

 矢代が答えた。「機能で分ける。医療・水・空気・避難は民生。発射、C2、燃料は軍事。配線も勘定も二系統にする」


合意


 最終案は、複雑なパズルのようだった。

 - MDB:成果連動型、四半期ごとに監査。

•ECA:設備保証を三つの工区に分け、問題発生時のリスクを限定。

•市場債:在外邦人向けの小口債券と、地震などをトリガーにした保険型債券を組み合わせ。


 その上で、用途ごとに四つのエスクロー口座(掘削、換気、排水、医療)を設け、資金の流れを細かく管理することが決まった。


 雨が上がった庁舎の外で、矢代が呟いた。

 「鉄筋を組む前に、まずは金融の枷を組まねばならんのか」

 サラは苦笑する。「でも、その枷があるからこそ資金は正しく流れる。自由すぎる金は、いつも血の匂いを呼ぶから」


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