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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン15
1881/2267

第39章 《サロスの発見:予測と権力》




 宮殿の大広間は緊張に包まれていた。王の玉座の前に、祭司パネシと若き測量士ネフが呼び出されていたのだ。今宵は皆既月食が起こると彼らが予告していた。もし予告が外れれば、権威は失墜し、地位を追われることになる。


 群衆の目は空に注がれていた。満月が東の空に昇り、白銀の光を放っていた。


サロス周期の知


 パネシは王の前で低く語り始めた。

「食は恐怖ではなく、周期の中にある。月はおよそ十八年と十一日ごとに、同じ幾何の条件を繰り返す。これを“サロス”と呼ぶ」


 ネフが補足した。

「二百二十三朔望月――それがサロスの長さです。朔望月は29.53日。これを二百二十三倍すると、十八年と十一日、さらに八時間に等しいのです。そのとき太陽・地球・月の位置関係はほぼ元に戻り、同じような日食・月食が起こるのです」


 群衆がざわめいた。

「同じ恐怖が繰り返されるというのか?」


「恐怖ではなく、理です」ネフはきっぱり言った。


8時間のずれと可視域


 だがパネシは慎重に言葉を重ねた。

「完全に同じではない。八時間のずれがあるため、食の見える地域は少しずつ西へ移る。今日ここで見える月食は、十八年前には遠い大地で見られていたのだ」


 メリトが目を丸くした。

「じゃあ、世界のどこかで常に繰り返しているんだね!」


 ネフはうなずいた。

「その通りだ。可視域はずれるが、周期は揺るがない。それがサロスの力だ」


予告の重み


 やがて月が欠け始めた。群衆はどよめき、王は目を細めて二人を見た。


「見よ!」とパネシが声を張った。「月が影に呑まれていく! 我らの予告は真であった!」


 群衆は恐怖と驚きに打たれ、膝を折った。


 王は立ち上がり、重々しく告げた。

「天を読み、未来を告げる者は王権を補佐するにふさわしい。パネシ、ネフよ、その知をもって国を導け」


 場は歓声に包まれた。


失敗の影


 だが同じ頃、遠い村では別の予告が外れ、王の怒りを買った祭司が失脚していた。食を予測する力は権威を高めもすれば、失敗すれば破滅をもたらす。


 ネフはその話を耳にし、呟いた。

「知は剣のようだ。正しく振るえば人を守り、誤れば自らを傷つける」


 パネシは頷いた。

「だからこそ記録を重ね、誤差を減らさねばならぬ。サロスとメトン、二つの周期を組み合わせれば、暦と食をともに制御できる。これが未来を導く鍵だ」


予測と権力


 皆既月食はやがて終わり、月は再び白さを取り戻した。群衆は安堵し、王は満足げに頷いた。


 パネシは静かに締めくくった。

「月を恐怖の神話から解き放つのは記録と予測だ。しかしその力を誰が握るか――それこそが政治の核心である」


 ケムとメリトは顔を見合わせ、未来を見据えた。

「月を読む力は、国を動かす力になるんだね」

「でもそれをどう使うかで、人々の暮らしは変わる……」


 夜空に白く輝く月は、もはやただの天体ではなかった。周期を読み、未来を告げることで、人を支配し、国を形づくる権力の象徴となっていた。


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