第32章 《全部つながる!「相関マップ」で月を読む》
ある晩、子どもたちは村の広場に集められた。地面には大きな板が置かれ、その上には方位と時間が描かれた円盤のような図が刻まれていた。ケムとメリトは目を輝かせる。
「今日は特別な学びの日だ」祭司パネシは厳かに言った。
「これまで見てきた満ち欠け、月の出る時刻、方角、そして高さ――それらはバラバラではない。一つの秩序でつながっている。そのつながりを、この“相関マップ”で示すのだ」
子どもたちは息をのんで板を見つめた。円の外周には「東」「南」「西」「北」の方角、内側には「昼」「夕方」「真夜中」「明け方」の時間が書かれている。
パネシは木の枝で板を指しながら説明した。
「まずは満ち欠けだ。新月は太陽と同じ方向にあるから、日の出とほぼ同じ頃に昇り、日没ごろに沈む。だからほとんど見えない」
ケムが板に小さな黒い石を置いた。
「ここが新月……東の地平線で日の出と一緒に出るんだね」
パネシは頷き、次を示した。
「上弦の月は太陽から90度離れる。正午ごろに昇り、真夜中ごろ沈む。半分の月が夕方の空に浮かぶのはそのためだ」
メリトが白い石を西寄りに置いた。
「なるほど、だから学校帰りの夕方に“半分の月”をよく見るんだ!」
続いてパネシは言った。
「満月は太陽と正反対。日没とともに昇り、日の出とともに沈む。だから一晩中、夜空に輝く」
子どもたちは声をそろえた。
「だから祭りや狩りの夜は、満月の明かりが頼りになるんだ!」
最後にパネシは下弦を示した。
「下弦は夜半に昇り、正午ごろ沈む。夜明け前の空に半月が浮かぶのはそのためだ」
ホルが補足した。
「つまり、月の形は“いつ・どの方角に出るか”と必ず結びついているのだ。形と時間を見れば、位置も予想できる」
ケムは感嘆の声を上げた。
「すごい! これで昨日と今日の違いも、満ち欠けや時間とつながるんだ!」
だがパネシはさらに深く語った。
「忘れてはならぬのは、南中高度と方位の揺れだ。季節によって、満月が高く昇るか低くなるかが決まる。そして十八年の周期で、その極みも変わる」
メリトは板に線を引いた。
「じゃあ、相関マップに“高さ”も書き込めば、もっと正確になるんだ!」
村人たちは子どもたちの熱意に笑みを浮かべた。ケムとメリトは一心に石を並べ、線を描いた。新月から満月までの道筋、季節ごとの高さ、出る方位のずれ――それらが一枚の図に収まっていった。
やがて板の上には、月の一か月のリズムと一年の季節、さらに十八年の長い周期までが重ね合わされた「天の地図」が描かれていた。
パネシはその板を見つめ、厳かに告げた。
「これこそ“相関マップ”だ。月は形と時刻と方位と高さを別々に変えるのではない。すべてが一つの秩序で結ばれている。その秩序を見抜く者は、月を読むことができる」
ケムは胸を張って言った。
「僕たちも月を読む者になれるんだね!」
「そうだ」パネシは笑った。「これからは自分の手で予測を立て、確かめよ。月は常に答えを示してくれる」
その夜、子どもたちは東の地平線を見張った。月は予報通り、少し遅れて、決めた方角から昇ってきた。歓声が上がり、相関マップに新しい石が置かれた。