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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン15
1873/2259

第30章 《冬の満月が高いのはなぜ?(季節と太陽との関係)》



 冬至が近づいたある夜、子どもたちは吐く息を白くしながら広場に集まった。東の空から昇る月は、赤々とした光を放ちながら、まるで天空を突き抜けるように高く昇っていった。


「見て!」ケムが指をさして叫んだ。

「首が痛くなるくらい高いよ! 夏に見た満月は低くて木の上をかすめていたのに!」


 メリトも頷いた。

「ほんとだ……夏の満月は、地平線のすぐ上を渡ってたよね」


 村人たちは焚き火を囲みながら空を仰ぎ、不思議そうにささやき合った。


 祭司パネシは杖を握り、ゆっくりと語り出した。

「その違いの理由は、太陽にある。太陽は一年の間に、空で昇る高さを変える。夏至の頃は高く、冬至の頃は低い。これは地球の軸が23.4°ほど傾いているからだ」


 彼は砂地に円を描き、斜めに棒を立てた。

「地球は傾いたまま太陽のまわりを回っている。そのため、夏は太陽が北寄りの空を高く通り、冬は南寄りの空を低く通るのだ」


 ケムは首をひねった。

「でも、今話してるのは月のことだよ。どうして太陽の話になるの?」


 パネシは空を指さした。

「満月は太陽と正反対にある。太陽が西に沈むとき、東から満月が昇る。太陽が低い道を通っているとき、満月はその反対に高い道を通る。太陽と月は“反対の鏡”なのだ」


 ホルが補足した。

「だから、冬に太陽が低いと、満月は高い。逆に夏に太陽が高いと、満月は低いってことか」


 メリトは大きくうなずいた。

「なるほど……太陽と満月はシーソーみたいに釣り合ってるんだ!」


 パネシは笑みを浮かべて頷いた。

「そうだ。冬至の頃、太陽の赤緯は−23.4°。すると満月はその反対で+23.4°の赤緯になる。だから南中高度はぐんと高くなる。夏至の頃は逆で、満月の赤緯が−23.4°になり、地平線すれすれを渡るのだ」


 子どもたちは驚きの声をあげた。

「じゃあ、満月の高さは季節ごとに決まってるんだ!」

「そうだ。太陽の動きが決まれば、満月の動きも決まる。季節のリズムそのものなのだ」


 アフが焚き火を見つめながら言った。

「なるほど……だから冬の満月は狩りの灯りになるほど明るく、夏の満月は低く、蒸し暑い夜を静かに照らすだけなんだな」


 村人たちは深くうなずいた。月はただ空にあるだけでなく、季節の証人だった。


 パネシは最後にこう結んだ。

「太陽と月は互いに反対の道を歩む。だから太陽が低く沈む冬に、満月は高く昇り、村を照らすのだ。これを知れば、季節を読むことができる。月は太陽の影の鏡――天の秩序を映す大いなる灯火なのだ」


 その夜、子どもたちは首を反らして高い満月を仰いだ。冷たい夜空に光るその月は、冬の厳しさのなかで村を守る灯火となっていた。


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