第30章 《冬の満月が高いのはなぜ?(季節と太陽との関係)》
冬至が近づいたある夜、子どもたちは吐く息を白くしながら広場に集まった。東の空から昇る月は、赤々とした光を放ちながら、まるで天空を突き抜けるように高く昇っていった。
「見て!」ケムが指をさして叫んだ。
「首が痛くなるくらい高いよ! 夏に見た満月は低くて木の上をかすめていたのに!」
メリトも頷いた。
「ほんとだ……夏の満月は、地平線のすぐ上を渡ってたよね」
村人たちは焚き火を囲みながら空を仰ぎ、不思議そうにささやき合った。
祭司パネシは杖を握り、ゆっくりと語り出した。
「その違いの理由は、太陽にある。太陽は一年の間に、空で昇る高さを変える。夏至の頃は高く、冬至の頃は低い。これは地球の軸が23.4°ほど傾いているからだ」
彼は砂地に円を描き、斜めに棒を立てた。
「地球は傾いたまま太陽のまわりを回っている。そのため、夏は太陽が北寄りの空を高く通り、冬は南寄りの空を低く通るのだ」
ケムは首をひねった。
「でも、今話してるのは月のことだよ。どうして太陽の話になるの?」
パネシは空を指さした。
「満月は太陽と正反対にある。太陽が西に沈むとき、東から満月が昇る。太陽が低い道を通っているとき、満月はその反対に高い道を通る。太陽と月は“反対の鏡”なのだ」
ホルが補足した。
「だから、冬に太陽が低いと、満月は高い。逆に夏に太陽が高いと、満月は低いってことか」
メリトは大きくうなずいた。
「なるほど……太陽と満月はシーソーみたいに釣り合ってるんだ!」
パネシは笑みを浮かべて頷いた。
「そうだ。冬至の頃、太陽の赤緯は−23.4°。すると満月はその反対で+23.4°の赤緯になる。だから南中高度はぐんと高くなる。夏至の頃は逆で、満月の赤緯が−23.4°になり、地平線すれすれを渡るのだ」
子どもたちは驚きの声をあげた。
「じゃあ、満月の高さは季節ごとに決まってるんだ!」
「そうだ。太陽の動きが決まれば、満月の動きも決まる。季節のリズムそのものなのだ」
アフが焚き火を見つめながら言った。
「なるほど……だから冬の満月は狩りの灯りになるほど明るく、夏の満月は低く、蒸し暑い夜を静かに照らすだけなんだな」
村人たちは深くうなずいた。月はただ空にあるだけでなく、季節の証人だった。
パネシは最後にこう結んだ。
「太陽と月は互いに反対の道を歩む。だから太陽が低く沈む冬に、満月は高く昇り、村を照らすのだ。これを知れば、季節を読むことができる。月は太陽の影の鏡――天の秩序を映す大いなる灯火なのだ」
その夜、子どもたちは首を反らして高い満月を仰いだ。冷たい夜空に光るその月は、冬の厳しさのなかで村を守る灯火となっていた。