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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン15
1872/2200

第29章 《いちばん高くなる高さ(南中高度)は何で決まる?》



 夏の終わり、子どもたちは再び広場に集まった。夜空には丸く大きな月が昇り、やがて村の真上に近い高さに差しかかろうとしていた。


 ケムは息をのんで叫んだ。

「今日は月がすごく高い! 首が痛くなるくらい!」


 だがホルは首を振った。

「いやいや、冬の満月はもっと高く昇ることがある。逆に夏の満月は低くて、地平線すれすれを渡っていくこともある」


 子どもたちは目を丸くした。

「どうして? 月は毎日同じ空を通るんじゃないの?」


 祭司パネシは杖を立て、地面に大きな弧を描いた。

「月のいちばん高い位置を“南中高度”と言う。だがその高さは決して一定ではない。観測する場所の緯度と、月が通る道――つまり“赤緯”によって決まるのだ」


 パネシは説明を続ける。

「まず、地球は球体だ。観測する場所の緯度が高ければ高いほど、空の天体は低く見える。逆に赤道に近づけば、天体は真上に近づく」


 メリトがうなずいた。

「だから南の国に行くと、月や星が頭の真上まで昇ることがあるんだね」


 パネシは頷き、さらに杖で図を描いた。

「次に、月には“赤緯”がある。これは、天の赤道からの角度だ。月の赤緯が大きければ大きいほど、南中高度は高くなる」


 ホルが補足する。

「つまり、南中高度はこう表せる。高度 ≈ 90° − |緯度 − 赤緯|。差が小さければ高く、大きければ低くなる」


 ケムは頭をひねった。

「じゃあ、僕たちの村は北の方だから、南中高度は低くなりやすいの?」

「そうだ」パネシが答える。「例えばこの村の緯度を35°としよう。月の赤緯が+23°のとき、南中高度はおよそ 90 − |35−23| = 78°。かなり高く昇る。だが赤緯が−23°のときは 90 − |35−(−23)| = 32°。地平線からほんの少ししか昇らぬ」


 子どもたちは驚いて声を上げた。

「同じ月なのに、赤緯によってこんなに違うんだ!」


 パネシはうなずき、空を仰いだ。

「だから、冬の満月は高く、夏の満月は低い。太陽と正反対にあるからだ。太陽が冬に低く昇るとき、満月は高くなる。太陽が夏に高いとき、満月は低くなる」


 メリトは感嘆の声を上げた。

「なるほど! 満月が太陽の反対にあるってことは、高さも逆になるんだ!」


 パネシは厳かに言葉を結んだ。

「南中高度は偶然ではない。地球の丸みと、月の通り道の傾きと、太陽との位置関係がすべて重なって決まる。これを知れば、月がどこまで昇るかを予測できる。村を守る神殿や柱を建てるときも、この知識は欠かせぬのだ」


 その夜、子どもたちは首を反らして月を見上げ続けた。月の高さはただの光景ではなく、地球の形と月の軌道が織りなす秩序そのものだった。彼らは初めて、空に“数式の影”を感じ取ったのである。


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