第10章 中間を探せ
ナイル川沿いの小丘には、すでに多くの杭が並んでいた。北の端には夏至の日の出の印、南の端には冬至の日の出の印。それらは東の地平線に沿って、広がる弧の両端を示している。
子どもたちは杭と杭の間を何度も行き来しながら、声を上げた。
「ほら! ここが一番北!」
「こっちは一番南!」
ケムが両手を広げて叫ぶ。
「太陽はこの間を毎年旅してるんだ!」
建築師ホルが縄を持ち出し、杭と杭を結びながら言った。
「では、ここから大事な問いだ。この二つの端の“真ん中”はどこか?」
子どもたちは顔を見合わせ、いっせいに走り出した。杭と杭の距離を歩き、数を数える。
「十歩でここからあそこまで! じゃあ五歩で真ん中だ!」
ケムが誇らしげに足を止める。
メリトも隣に立ち、息を弾ませながら言った。
「ここから太陽が昇る日は……あるのかな?」
老祭司パネシが杖でその地点を指した。
「よく気づいた。その日こそ、特別な日なのだ」
ケムが目を輝かせる。
「特別?」
パネシはうなずいた。
「夏至と冬至は太陽の折り返しだ。だが、その間の真ん中――そこで昇る日は、年に二度だけある。それが“均衡の日”だ」
メリトが息を呑む。
「均衡……昼と夜が同じ長さになるの?」
「その通りだ」パネシは微笑んだ。
「その日、太陽は真東から昇り、真西へ沈む。これが“真東”“真西”という大地の基準だ」
子どもたちはざわめき、杭を見つめた。
「真東……」ケムが呟く。
「これまでの“東”と何が違うの?」
ホルが縄を引いて説明した。
「“東”とは太陽が昇る方角全体を指す。だが“真東”はその中のただ一つの点。太陽が均衡をもたらす方向だ。神殿を建てるなら、この線を基準にすべきだろう」
メリトが身を乗り出す。
「じゃあ、“真西”も分かるね! 反対に杭を立てればいい!」
ケムは地面に線を引き、歓声を上げた。
「東から西へ、一直線! これが太陽の道だ!」
その夜、焚き火の周りで子どもたちは昼の発見を語り合った。
「真ん中を見つけただけで、そんなに大事になるの?」ケムが不思議そうに言った。
パネシは薪をくべながら答えた。
「大事なのは“均衡”だ。大地には闇と光、暑さと寒さ、生と死の二つがある。その間にある均衡こそ、神々が定めた秩序なのだ」
メリトは静かに手を合わせた。
「昼と夜が同じなら、人もまた争わずにいられるのかもしれない」
大人たちは笑みを浮かべ、頷いた。
翌朝、パネシは弟子たちに縄を渡した。
「この線を神殿の基準とせよ。真東から射す光は、奥の祠を照らすだろう」
ホルが真剣な表情で縄を張りながら言った。
「東西の基準があれば、南北も定められる。四方位が揃えば、大地は宇宙と調和する」
ケムとメリトは目を見合わせ、声をそろえた。
「太陽の真ん中から“秩序”が生まれるんだ!」
パネシは満足げに笑った。
「よく覚えておけ。真東と真西を知ること、それが天地の秩序を人の営みに写し取ることなのだ」
杭の列は朝日に照らされ、黄金に輝いた。村人たちはその線を新しい基準として心に刻んだ。