表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン15
1853/2267

第10章 中間を探せ




 ナイル川沿いの小丘には、すでに多くの杭が並んでいた。北の端には夏至の日の出の印、南の端には冬至の日の出の印。それらは東の地平線に沿って、広がる弧の両端を示している。


 子どもたちは杭と杭の間を何度も行き来しながら、声を上げた。

「ほら! ここが一番北!」

「こっちは一番南!」


 ケムが両手を広げて叫ぶ。

「太陽はこの間を毎年旅してるんだ!」


 建築師ホルが縄を持ち出し、杭と杭を結びながら言った。

「では、ここから大事な問いだ。この二つの端の“真ん中”はどこか?」


 子どもたちは顔を見合わせ、いっせいに走り出した。杭と杭の距離を歩き、数を数える。


「十歩でここからあそこまで! じゃあ五歩で真ん中だ!」

ケムが誇らしげに足を止める。


 メリトも隣に立ち、息を弾ませながら言った。

「ここから太陽が昇る日は……あるのかな?」


 老祭司パネシが杖でその地点を指した。

「よく気づいた。その日こそ、特別な日なのだ」


 ケムが目を輝かせる。

「特別?」


 パネシはうなずいた。

「夏至と冬至は太陽の折り返しだ。だが、その間の真ん中――そこで昇る日は、年に二度だけある。それが“均衡の日”だ」


 メリトが息を呑む。

「均衡……昼と夜が同じ長さになるの?」


 「その通りだ」パネシは微笑んだ。

「その日、太陽は真東から昇り、真西へ沈む。これが“真東”“真西”という大地の基準だ」


 子どもたちはざわめき、杭を見つめた。

「真東……」ケムが呟く。

「これまでの“東”と何が違うの?」


 ホルが縄を引いて説明した。

「“東”とは太陽が昇る方角全体を指す。だが“真東”はその中のただ一つの点。太陽が均衡をもたらす方向だ。神殿を建てるなら、この線を基準にすべきだろう」


 メリトが身を乗り出す。

「じゃあ、“真西”も分かるね! 反対に杭を立てればいい!」


 ケムは地面に線を引き、歓声を上げた。

「東から西へ、一直線! これが太陽の道だ!」


 その夜、焚き火の周りで子どもたちは昼の発見を語り合った。

「真ん中を見つけただけで、そんなに大事になるの?」ケムが不思議そうに言った。

パネシは薪をくべながら答えた。

「大事なのは“均衡”だ。大地には闇と光、暑さと寒さ、生と死の二つがある。その間にある均衡こそ、神々が定めた秩序なのだ」


 メリトは静かに手を合わせた。

「昼と夜が同じなら、人もまた争わずにいられるのかもしれない」


 大人たちは笑みを浮かべ、頷いた。


 翌朝、パネシは弟子たちに縄を渡した。

「この線を神殿の基準とせよ。真東から射す光は、奥の祠を照らすだろう」


 ホルが真剣な表情で縄を張りながら言った。

「東西の基準があれば、南北も定められる。四方位が揃えば、大地は宇宙と調和する」


 ケムとメリトは目を見合わせ、声をそろえた。

「太陽の真ん中から“秩序”が生まれるんだ!」


 パネシは満足げに笑った。

「よく覚えておけ。真東と真西を知ること、それが天地の秩序を人の営みに写し取ることなのだ」


 杭の列は朝日に照らされ、黄金に輝いた。村人たちはその線を新しい基準として心に刻んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ