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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン1
185/2293

第101章:御聖断への道筋


秋月の報告は、会議室に深い沈黙をもたらした。しかし、天皇陛下は、静かに、そして毅然とした表情で、有馬と秋月の話に耳を傾けていた。その瞳の奥には、国民の安寧を願う深い慈悲と、この国の運命に対する責任が宿っていた。


「では」陛下は、静かに問われた。「その原子爆弾の投下を、確実に回避する道は、もはや存在しないというのか?」


秋月は、深々と頭を下げた。「恐れながら、陛下。軍事的な手段による阻止は、極めて不確実でございます。しかし、唯一、確実にその悲劇を回避できる道がございます。それは…早期の無条件降伏を受諾されることでございます」。


その言葉に、会議室の空気は再び凍り付いた。重臣たちの顔には、驚愕と反発、そして苦痛の色が入り混じる。東條の顔は、苦渋に歪み、梅津は明らかに動揺を隠せない。彼らにとって、無条件降伏は、武人の誇りを捨て、国民に塗炭の苦しみを強いる、許されざる選択肢だった。


「史実において…」秋月は、再び未来の知識を語り始めた。「もし、日本がもう少し早く無条件降伏を受諾していれば、広島と長崎への原爆投下は避けられました。米国は、日本がポツダム宣言を受諾すれば、それ以上の武力行使は行わない準備があったと、我々の未来の歴史では記されています。しかし、当時の日本は決断が遅れ、それが二つの都市の壊滅に繋がったのです」。


有馬も、秋月の言葉に続いた。「陛下。我々が未来から来たことで、歴史の歯車はすでに歪み始めております。広島と長崎への同時攻撃という、史実を上回る悲劇が迫っております。この期に及んで、軍事的抵抗を続ければ、国民は、想像を絶する苦しみを受けることになります」。


重臣の一人が、震える声で反論した。「しかし、陛下!無条件降伏など、日本武士の誉れが許さぬ!国民は、玉砕覚悟で戦い続けることを望んでおります!」


東條は、その言葉を聞きながら、苦悩に満ちた表情で目を閉じた。彼の心の中では、軍人としての誇りと、未来の知識が示す日本の破滅、そして天皇への忠誠が激しくぶつかり合っていた。彼は、秋月と有馬から得た情報が、嘘偽りない真実であることを理解していた。


「陛下」東條は、重い口を開いた。その声は、かつての強硬な陸軍大臣のものとは異なり、深い苦渋に満ちていた。「私もまた、無条件降伏は、断腸の思いでございます。しかし、この者の未来からの情報は信ずるにたる十分な根拠がございます。この原子爆弾の脅威が、我々の想像を遥かに超えるものであることは疑いようがございません。国民を、これ以上の悲劇から救うため…誠に、誠に恐れながら、陛下の御聖断を仰ぎ奉り申し上げます」。

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