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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン1
181/2197

第98章:帰還の窓、そして新たな指令


沖縄を後にした潜水艦そうりゅうは、静かに深海を航行し続けていた。艦内の空気は、原子爆弾阻止という大義から、本来の時代への帰還という、もう一つの希望へと傾き始めていた。艦橋のディスプレイには、斎藤三尉が監視する時空歪みのデータが、リアルタイムで表示され続けている。


そうりゅう艦長は、その画面を凝視していた。彼の脳裏には、斎藤三尉が語った「時空の共鳴現象」と「自己修正メカニズム」という理論が、確信へと変わっていた。あとは、その「窓」がいつ、どれだけの時間開くのか。


「艦長!データが収束してきました!」斎藤三尉の声が、興奮を抑えきれずに響いた。彼女の指が、高速でキーボードを叩く。複雑な数式がディスプレイに瞬時に展開され、最終的な演算結果が導き出された。

「解析結果が出ました!時空の歪みが最も収束し、ゲートが開く瞬間…それは、3日後の8月6日、昼の12時から13時の間です!」斎藤三尉は、明確に報告した。彼女の顔は、驚きと達成感で紅潮している。


そうりゅう艦長は、その数字に目を見開いた。8月6日。それは、彼らが知る歴史において、広島に原子爆弾が投下された、まさにその日だった。未来を変えるための介入と、自分たちの帰還のタイミングが、恐ろしいほどに重なっている。


「時間幅は?正確な開口時間はどのくらいだ?」そうりゅう艦長は、前のめりになって問うた。

「現在のエネルギーレベルと安定性から判断すると、約1時間の時間幅でゲートが開放状態を維持すると予測されます!」斎藤三尉は答えた。「この間隔であれば、十分に安全な帰還オペレーションが可能です!」


その報告に、艦橋の乗員たちの間に、ざわめきが広がった。1時間。それは、そうりゅうが安全に帰還するために、十分すぎるほどの時間的猶予だった。彼らは、この絶望的な時代から抜け出し、本来の日常へと戻れるのだ。

そうりゅう艦長は、すぐさま通信士に指示を出した。「直ちに大和と通信を確立しろ!有馬艦長に連絡だ!」


数秒後、無線越しに有馬艦長の重厚な声が響いた。「こちら大和、有馬だ」。

「有馬艦長、そうりゅう艦長です。時空の歪みに関する最新情報をお伝えします。時空のゲートが開く瞬間が、3日後の8月6日、昼の12時から13時の間であることが判明しました。そして、そのゲートは約1時間の時間幅で開放状態を維持します」。


有馬は、通信の向こうで息を呑む音が聞こえた。「3日後、8月6日…」。その日は、彼ら帝国海軍にとって、来るべき原爆投下の日とされている。


「貴艦は、5日の早朝には、この時空の特異点に到達できるはず」そうりゅう艦長は、続けた。「これで、大和から我々海上自衛隊の乗員をそうりゅうに移乗させる時間的余裕は十分にあります。貴艦の乗員を、未来への帰還へと導くことができます。入念な移乗計画を策定し、万全の態勢で準備を進めてください。我々は、3日後のその時まで、この海域で待機します」。


有馬の返答は、短い沈黙の後、力強く響いた。「承知した、そうりゅう艦長。貴官らのもたらした希望に感謝する。我々も、必ずやその時までに貴艦の元へ到達する。そちらも、くれぐれも警戒を怠らぬよう」。


通信が切れると、そうりゅう艦長は大きく息を吐き出した。広島への原爆投下日。その日に、自分たちは元の世界に戻る。歴史を変えるために介入した彼らが、その運命的な日に帰還するという皮肉。しかし、同時に、原爆阻止という最大の使命は「まや」に託されている。彼らは、未来を信じ、この時代を後にする準備を進めるのだった。



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