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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン14
1809/2254

第4章 《古墳と豪族》




 光の粒が散り、榊原義真の視界に立ち現れたのは、巨大な丘だった。

 それは単なる土盛りではない。広大な土地を切り開き、何千という人々の労働で築き上げられた「権威の象徴」。古墳だった。

 緑に覆われた前方後円墳の上には埴輪が整然と並び、戦士、馬、家、船――あらゆる形が土で作られ、列島における力と記憶を誇示している。


 榊原は畏怖に似た感覚を覚えた。

 「これは墓であり、同時に武の舞台だ」


 彼の足は勝手に動き、古墳の麓に広がる集落へと運ばれた。そこには豪族の屋敷があった。木柵に囲まれ、高床の倉庫が並び、鉄の矢尻や剣が倉に収められている。縄文・弥生の素朴な暮らしとは明らかに異なる。ここには組織だった支配と武力があった。


 広場では、若者たちが鉄剣を手に訓練していた。太陽の光を反射して刃が鈍く光る。木槍や石斧とは比較にならぬ重量感と切れ味。金属の響きが耳を打つ。

 榊原はその光景に武士の姿を重ねた。鉄という新しい武の具が、人々の精神を変えていく。命を奪う力を持つ者こそが権威を握る――その理が、この時代に確立されつつあった。


 屋敷の奥では饗宴が開かれていた。豪族の長が鹿の肉を捌き、赤い酒を土器に注ぐ。左右には客人が並び、贈答の品として鉄器や玉がやり取りされる。権威は力だけでなく、財と祭祀によっても示されていた。

 榊原はその席に同席するかのように感じた。盃を手にした豪族の眼差しには、戦士としての冷たさと、支配者としての誇りが宿っている。


 やがて場面が変わる。

 榊原は古墳の前で行われる葬送の儀式に立ち会った。

 死した長は白布に包まれ、舟形の棺に納められる。戦士たちが鉄剣を地に突き立て、列をなして進む。女性たちは悲嘆の歌を歌い、埴輪を運ぶ。

 「死してなお、武の力を誇示する」

 榊原は震えた。墓は単なる死者の家ではない。権威の永続を示す舞台であり、生者に秩序を刻み込む装置なのだ。


 その瞬間、AIの声が耳の奥で囁いた。

 ――「武の系譜は、権威の可視化によって強化される」


 榊原は頷く。

 豪族の時代、刀剣と古墳は表裏一体の存在だった。武はもはや個人の力ではなく、共同体を支配する権威の根拠となった。


 彼は思った。

 「我が祖先が武士として立った時、その根にはすでにこの精神があったのだ」


 さらに記録は彼を戦の場へと誘う。

 草原に集う二つの集団。鉄剣と鉄槍を掲げ、鬨の声を上げる。

 榊原の手には、重みある剣が握られていた。刃が陽を浴びて眩しい。

 踏み込む瞬間、相手の剣が閃き、衝撃が腕を痺れさせる。

 血が飛び、土に染み込む。叫びと怒号。

 ――これは弥生の水争いの延長ではない。土地と人を支配するための「武力戦争」だ。


 榊原は気づいた。

 この戦いの感覚は、やがて源平の戦場へ、そして戦国の合戦へと連なっていく。刀の重み、敵を前にした恐怖と昂揚。それは時代を越えて同じ。


 戦が終わり、勝者は古墳に新たな埴輪を加える。敗者の名は消える。

 記録は残酷なまでに冷徹だった。歴史は勝者の武によって書き換えられる。

 榊原は拳を握りしめる。

 「これが武士の宿命か……勝つことでしか、名を遺せない」


 やがて映像は薄れ、榊原の視界に新たな景色が浮かんだ。

 都の伽藍、仏像、そして平安貴族の優雅な調度。

 だがその陰で、武を抱いた者たちが台頭し始めていた。

 ――平安末期、武士団の胎動。


 榊原の心臓が高鳴る。豪族の血脈が、ついに「武士」という名を得る瞬間が近づいていた。


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