第91章:残された使命、そして皇居への道
呉の軍港、イージス艦「まや」の艦橋に、沖縄からの緊急連絡が入ったのは、そうりゅうが港を離れ、時空の歪みへと向かった直後のことだった。無線機のスピーカーから、そうりゅう艦長の、しかしどこか安堵したような声が響き渡る。
「こちらそうりゅう艦長。まや艦長、応答願います。我々は、先ほど沖縄を出港し、現在、時空の歪みが検知されている海域へと向かっています。燃料は、残骸となった艦艇からかろうじて確保できました。沖縄の旧軍の皆様、そして民間人の皆様とも、無事別れを告げることができました。牛島司令官もご健在です 貴艦との正確なランデブーポイントを後ほど送信します。以上」
秋月は、そうりゅうからの通信を切ると、すぐさま有馬艦長に連絡を取った。 「有馬艦長、そうりゅうはタイムスリップ海域へ向かいました。我々の任務は、今、ここにいる志願した士官全員で全力を尽くすしかありません」
「承知した」有馬の声が無線越しに響く。「では、そちらの士官以外のイージス艦まやの残りの乗員を全て『大和』に乗艦させてほしい。そして、大和でタイムスリップ海域まで南下する。そこでそうりゅうと合流し、貴艦の乗員をそうりゅうに移乗させる計画を実行に移す。この時代の人間である我々が、未来の兵士の帰還を助けるべき使命をまっとうする」。
秋月は、有馬のその言葉に、胸が熱くなるのを感じた。それは、帝国海軍の将として、自らの艦と共に運命を共にする、誇り高き決意表明だった。
「承知いたしました、有馬艦長。では、我々の下士官、曹士は全員、大和へ移乗させます。未来への帰還の望みを、彼らに託します」
「まや」の艦内では、すぐに慌ただしい移動が始まった。下士官や曹士たちは、残された僅かな私物と、未来から持ち込んだデータデバイスを携え、静かに「まや」を後にし、隣に停泊する「大和」へと移乗していく。彼らの顔には、故郷へと帰れるかもしれないという希望と、残る士官たちへの複雑な感情が入り混じっていた。