表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン13

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1666/3594

第2章 議論の始まり


 火星の夕暮れは、不思議な静けさを伴っていた。外では砂嵐が金属の外壁を叩き、低い唸りが絶え間なく響いている。だが居住モジュールの内部は温度二二度、湿度四〇パーセントに保たれ、柔らかなランプの光に包まれていた。


 夕食を終えた四人は、それぞれのカップを手にしていた。中身は再生水に粉末を溶いた疑似コーヒー。苦みは乏しくとも、飲む仕草そのものが心を落ち着けた。


 藤堂科学主任は静かにカップを回しながら、テーブル中央に置かれたサンプルケースを見つめていた。透明な容器の中には、先日の掘削で発見された六角形の結晶片が収められている。光を反射するたびに、人工的な彫刻のような整然さを放っていた。


 「……やっぱり、ただの鉱物には見えないな」

 藤堂の呟きに、佐伯医官が顔を上げた。

 「形が整いすぎている。生物が作った構造物みたい」


 葛城副艦長は腕を組んだまま、窓越しに砂嵐を見ていた。

 「この星は死んでいる。なのに、こんなものが眠っていた。……おかしいと思わないか?」


 野間通信士は手帳を開き、何かを書き付けていた。習慣のように記録を残すのだ。ふと顔を上げて言った。

 「おかしい、というより……問いを突きつけられてる気がする」


 その瞬間、壁際のスピーカーが低く鳴った。AI〈Ω〉の声だった。

 Ω《記録照合完了。サンプル結晶は地球の既知鉱物データベースに一致せず》


 短い報告に、全員の視線が集まった。結晶は鉱物か、あるいは――。


 ランプの光が小さな円卓を照らす。砂嵐の外音と機械の駆動音だけが背景に流れる。

 誰からともなく、言葉が漏れた。


 「……結局、これは“生きている”のか?」


 沈黙が落ちた。だが、その沈黙は次の瞬間、自然に議論の場へと変わっていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ