表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン12

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1664/3593

第128章 もうひとつの水面


 接続が終わり、三人はアーカイブ室で静かに目を開けた。白いヘルメットを外したとき、現実の空気が肺に戻ってくる感覚は確かに鮮やかだった。けれど胸の奥には、拭い難いざらつきが残っていた。


 三井悠人が沈黙を破った。

 「……なあ、今見たのは本当に俺たちの歴史だったのか?」


 岩崎達哉は窓の外、東京湾の水面を見つめた。

 「分からん。けど確かに、俺たちが知る共和政日本じゃない。あれは別の史実だ」


 住友美咲は両手を膝に置き、低く呟いた。

 「私たちの世界と、もうひとつの世界が重なっている……そんな感覚が消えないの」


 室内の壁に埋め込まれた光点が、規則正しく点滅していた。通常ならただの稼働ランプ。しかしその瞬間、三人には別のリズムに見えた。まるでどこか遠くの時空と同期し、瞬きを交わしているかのように。


 AIの声が、かすかに揺らぎながら響く。

 《……観測は続いています……多元層、干渉率上昇……》


 三人は顔を見合わせた。言葉は交わさなかったが、互いに同じ直感を抱いていた。

 ――この艦は、ただの記録装置ではない。別の世界線へと接続している。


 窓の外、東京湾の水面が淡く揺れた。

 波間に映る《大和》の影が、一瞬だけ二重に見えた。片方は、彼らが知る共和国の象徴としての大和。もう片方は、史実の彼方で一度沈んだはずの幻影としての大和。


 美咲は思わず息を呑んだ。

 「私たちは……いまも別の日本と繋がっているのね」


 悠人は拳を握りしめた。

 「だとしたら、俺たちの選択は無駄じゃない。どの川を辿るかは、これからの時代に委ねられている」


 達哉は静かに頷き、外の水面に視線を戻した。

 その揺らぎはすぐに消え、再びただの夜の海へと戻った。


 だが三人は確信していた。

 ――物語はここで終わりではない。

 ――もうひとつの世界線が、彼らの歩む道のすぐ隣で、絶えず脈打ち続けている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ