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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン12

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第126章 新しい不安定の時代




 視界に立ち上がったのは、2020年代半ばの日本と世界の姿だった。パンデミックの記憶はまだ人々の生活に影を落としつつも、街には再び観光客が戻り、飲食店に賑わいが戻っていた。だがその表層的な活気の裏で、世界は新しい不安定に覆われていた。


 AIの声が重く響く。

 《戦争、気候変動、そしてAI革命。21世紀の均衡は、過去のいかなる時代よりも脆く、そして複雑でした》


三井の視点 ― 金融と戦争


 三井悠人の目に飛び込んできたのは、ウクライナ情勢を報じるテレビ画面だった。爆撃の閃光が夜空を裂き、避難する人々が駅の地下に押し寄せている。


 東京の銀行の会議室では、幹部たちが深刻な顔で資料を見つめていた。

 「ロシア関連の資産は凍結だ。取引先の企業は大打撃を受ける」

 「エネルギー価格の高騰で国内産業も揺らいでいる」


 悠人は胸の奥に、祖先の声を思った。

 ――信用は利子より重い。

 だが戦争が吹き荒れる中で、信用は簡単に失われる。国境を越える資本の流れは、かつての戦艦の砲撃よりも速く世界を混乱させていた。


三菱の視点 ― エネルギーと気候変動


 岩崎達哉の視界は、猛暑に揺らぐ東京の街並みに移った。アスファルトが熱を帯び、人々は汗を拭きながらマスクを外していた。

 一方、世界のニュースは大洪水、巨大台風、干ばつを映し出す。


 会議室では三菱系エネルギー企業の役員が議論を重ねていた。

 「化石燃料を続けるのか、再生可能エネルギーに転換するのか」

 「だが再エネはコストが高い。市場競争に勝てるのか」


 達哉は胸を痛めた。

 「祖先が海を越えて築いた“航路”はいまや地球規模の選択に変わっている。だが進むべき航路は霧に覆われている……」


住友の視点 ― AIと人間


 住友美咲の視界は、最先端の研究所に広がった。そこで開発されているのは人工知能。無数のサーバが光を放ち、AIは人間の声を模倣し、文章を生成し、株式市場の売買すら自動化していた。


 若い研究者が語る。

 「AIはもはや“道具”ではありません。人間の意思決定そのものを置き換えつつあるのです」


 だが現場の社員は不安を口にした。

 「これじゃ私たちの仕事はなくなる」

 「便利さと引き換えに、人間の価値が削られていく……」


 美咲は祖先の言葉を思い出した。

 ――純度を守れ。

 「人間の純度は、どこに残るのか。AIの進歩が人を豊かにするのか、それとも人間性を侵食するのか……」


三つの交差 ― 不安定の連鎖


 視界に重なったのは、物価高騰に揺れるスーパーのレジ前、猛暑で倒れる人々、SNSで飛び交うフェイクニュース、国会前で叫ぶ市民の声だった。

 「給料は上がらないのに、生活費だけが増える」

 「環境のためと言われても、私たちの暮らしはどうなる」

 「AIに職を奪われるくらいなら、まだ機械を壊した方がマシだ」


 社会の声は渦を巻き、かつての繁栄と安定を飲み込んでいく。


 AIの声が重なった。

 《新しい不安定の時代において、財閥の末裔も、もはや特権的な存在ではありません。彼らもまた、一市民として揺らぐ社会に翻弄されるのです》


個人の選択


 三井の子孫は、金融の不安定の中で「地域信用金庫に残るか、大手から外資系に移るか」を迫られていた。

 三菱の子孫は、環境政策に翻弄されながら「企業人として利益を守るのか、地球の未来を守るのか」の岐路に立たされていた。

 住友の子孫は、AI研究の現場で「効率を追うのか、人間性を守るのか」という問いに直面していた。


 三人はそれぞれ異なる道を歩みながらも、同じ不安定の中に立たされている――それだけは確かだった。


次章への予兆


 視界が暗転し、遠くに未来の都市が浮かんだ。高層ビル群の光の中で、ドローンが飛び交い、巨大なサーバ群が低く唸っている。

 AIが告げる。

 《次に訪れるのは2025年――あなたたちが接続している現在の時代です。ここで、古代から続いた歴史の記憶は収束し、あなた自身の選択が問われることになります》


 三人は息を呑み、最後の時代への扉を見据えた。


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